サプライズ

田所くんから度々電話があった。たわいもない話をした。学校どうだった?とか質問に答える感じ‥坊主が嫌であまり学校には行かず植木屋で働いてるらしかった。

「一緒に行った‥よっこって覚えてる?」

「えっ‥ごめん…覚えてない」

あんなに可愛いのに覚えてないとかあるのか?

それ以上何も言わなかったから、あたしも何も言わなかった。考えてみたら、あたしも田所くん以外覚えてないな‥

その日は突然やってきた。いつもの田所くんからの電話。

「ぶどう公園って、ゆうんちの近くだよね」

「うん。近いよ」

「今‥近くにいるんだ…少し会えないかな?」

「えっ?今?‥」

驚き過ぎて変な声が出た。

「すぐ帰るから…少しだけ出て来れない?」

恥ずかしいだけで断る理由がない。

「うん‥」

「急がなくていいから…待ってるから」

今から誰かに付き合ってもらうにも遅くなるし‥困った。でも待たせる訳にもいかない。

行かなきゃ‥緊張で頭が回らず、ただ無駄に家の中を右往左往して、とりあえず公園に向かった。何を話せばいいんだろう…

入口付近に人影が見えた‥誰だか直ぐに分かった。

こっちを見ないで…

心の中でお願いしながら気づかぬフリで、うつむきながら近づいた。

タッタッタッ…近づく足音‥

「急にごめんね」

顔を上げると優しい笑顔の田所くんが立っていた。身体中の神経が、田所くんに向かって波を打った。

「あの…これ受け取ってくれる?」

手提げ袋を差し出した。どうしたらいいのかパニックって袋の中に手を突っ込んだ。

「このままでいいよ」

田所くんは優しく言うと紙袋を持たせてくれた。

恥ずかしい…手を突っ込んじゃった…

袋のまま受け取れば良かったのか‥

もう逃げて帰りたい…

「ありがとう」

顔は見れないけど、お礼は言えた。

「じゃあ今日は帰るね。送るよ」

「大丈夫。大丈夫。近いから」

身体が宙に浮いた感覚のまま、気がついたら家に帰っていた。

また失敗しちゃった…

目の前の手提げ袋を暫く眺めていた。

プルルル…

ビクッ‥どれだけ放心状態でいたのだろう。電話の音で我に返った。

「はい」

「あっ、田所だけど…」

また胸がドキドキと波打った。

「さっきはごめんね。ちゃんと帰れたか気になって」

いつも気にしてくれるんだね。

「うん。大丈夫」

心の声は言葉にならない。

「見た?」

「うん」

咄嗟に言ってしまった‥

「気に入ってくれたかな?どうだった?」

「うん。ありがとう」

「良かった~気に入られなかったら、どうしようかと思った」

安心したのが分かった。

そんなに心配するような物なのか?何が入っているんだろう…

電話を終えドキドキしながら袋の中の物を出した。

可愛いキャラクターのタオルとシルバーのブレスレットが入っていた。ブレスレットの表には愛羅武勇、裏にはI.Uと彫られていた。

これって…凄い思いがこもった物じゃないのか?軽々しくお礼を言ってしまった‥

ブレスレットを腕につけてみた‥

嬉しい気持ちがこみ上げた‥

腕につけたまま眠りについた。

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