第6話 それは聞いてなくってよ!

 あの日の看病からめぐみは私に従順になっていった。

 私に見せる表情には鉄仮面が付けられてなくなっていた。

 しかし私以外の第三者が関わってくると仮面は急に姿を現す。

 不意に現れた仮面に私は思わず吹き出すことがあった。


 日曜日、私たちは遊園地に来ていた。

 めぐみは遊園地が初めての様なはしゃぎぶりだった。

 楽しそうな乗り物をキョロキョロと見回している。

 それは上京したてのお上りさんの様に落ち着きがなかった。


「あれは!あれは何ですの⁈」


 いちいち五月蠅かった。目に留まるモノを子供の様に聞いてくる。


「ああ、うるさい…ジェットコースターでしょ?」


「へぇ~」


 しかし納得する様子は少し可愛いなぁと思っていた。


 遊園地に来てから私には気になる事があった。

 子供連れの家族を見るたびに、めぐみの顔は寂し気だった。

 17歳の女の子に一人暮らしをさせている家族。めぐみが病気である事を知らずにか看病にも来なかった。

 そういえばめぐみとの話で家族の話は聞いたことがない。

 あれだけのマンションを用意するくらいだ経済的には恵まれているのだろうが愛情はあるのだろうか?

 聞いてみたいと思ったが無粋な話なので口にするのは躊躇った。


 そんな時、一人の女性が子供を探している姿を目撃する。

 迷子なのか子供を探す女性の様子はとても必死だった。


「すみません!5歳くらいの女の子見かけませんでした⁈」


 私たちに尋ねる様子にも慌ててるのが伺える。


「何の話ですの⁈私はそんな子供など知りませんわ!」


 めぐみの鉄仮面モードが始まった。やんわり「見てません」と言ったらいいのに。

 どうしてそこで啖呵を切るのだろう。

 私はめぐみと母親の間を遮る様に割って入った。


「どうしたんですか?お子さんが迷子になりましたか?」


「はい…目を離した隙に居なくなってしまって…」


 母親は消沈していた。心配はしていたが私たちでは大した力になれない。迷子センターへ相談するのが手っ取り早いと思った。


「目を離すなんて親として失格ですわ!仕方ありませんね!私たちも探しましょう!」


 私は目の前で啖呵を切るめぐみの発言に開いた口が塞がらなかった。

 厳しいのか優しいのかわからない。しかも私らだけで探そうと本気で思ってるんだろうか?


「娘さんはどんな子ですの⁈」


「黄色の帽子を被ったおかっぱの娘です」


「わかりましたわ!」


 そう言ってめぐみはどこかに走り去って行った。それは物凄い全力疾走であっと言う間に姿は見えなくなった。

 私たちが呆然としているとめぐみは黄色い帽子を被ったおかっぱの女の子を抱えて戻ってくる。

 女の子はめぐみに抱えられながら「ママ!」と叫んでいた。


「見つかりましたわ!今度から気をつけなさい!」


 あっと言う間の出来事だった。めぐみは「はぁはぁ」と息を切らせていた。


「ありがとうございました」


「金輪際、子供から目を離したらいけませんわ!」


 そう啖呵を切るめぐみの様子は何故か寂しげだった。

 親子を見送りながら私は不意にめぐみに質問した。


「めぐみのお母さんってどんな人?」


「私、お母さんはいませんのよ」


 めぐみの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

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