第8話 歓迎会

 次の日、今度はしっかりと三人とも集まった固有魔術研究会ではアンドレとリリアーヌがカノンへ研究会の詳しい説明をしていた。

「この会室で文献を調べたり術式を考えたりして、魔術を試したいときは昨日リリアーヌが荒らしたフィールドを使うといったところだ」

 リリアーヌ先輩が淑女のように「お恥ずかしいですわ……」と眉尻を下げる。

「活動は新魔術を生み出す努力をすること。メンバーは俺とリリアーヌとカノンの三人。少ない人数だが、これからよろしくな」

「……よろしくお願いします」

 まさかメンバーが私含めて三人だけとは思わなかったけど、二人ともキャラが濃いのでこれ以上多くても胃もたれする気がする。

「歓迎と昨日のお詫びも兼ねて、お菓子を持参いたしましたの。少しつまみながら話しませんか?」

「ちょうどいいな。ささやかな歓迎会と行こうか」

「……すみません。私、体質的に昼間に物を食べられなくって……なので、私の分もお二人で食べてください」

「そ、そう……まあ、いろいろあるものね。それに体質なら仕方ないわ」

 少し落ち込んでしまうリリアーヌ先輩には申し訳なさを覚える。クレア曰く、体質的に朝晩に決められた食事以外を摂ってはいけないらしい。

「そういえばアンドレさんはカノンさんと闘ったことがあるんでしたよね? どうでしたの?」

 焼菓子を鞄から取り出しながらリリアーヌ先輩が訊く。本人は何気ない風を装っているが、速く答えを求めるその目からずっと気になっていたことが窺える。

「俺より強かったぞ」

 なんでもないことのように返すアンドレ先輩の言葉に、リリアーヌ先輩の雰囲気が少し変わる。

「そうですか。カノンさん、後で魔術戦やりましょうか」

「……は、はい」

 有無を言わさない雰囲気で魔術戦を持ちかけられて思わず受けてしまった。

「あんまり比べても意味はない気がするけどな。リリアーヌが好きなのは派手な魔術だろ? カノンが得意なのは真逆の繊細な魔術……違うか?」

「……まあ、だいたい、合ってます」

 何が繊細な魔術に当たるのかは分からないけど、複雑な術式を組み上げることが繊細な魔術という意味ならアンドレ先輩の言うことは七割くらい当たっているだろう。

「じゃあ別にいいですわ。わたくしは派手な魔術にしか興味がありませんので」

 昨日先輩が使っていた巨大な花の魔術──あれは見た目こそ派手だが、正確に亀裂を入れることや、土の柱をバランスが崩れないように立たせることには繊細な技術が必要になる。

 そういう意味ではリリアーヌ先輩の魔術は繊細だという気がしたけど、地雷を踏みそうなので言うのはやめておいた。

「カノンは何か繊細で新しい魔術を作ってみるのはどうだ?」

「……繊細な魔術──というのは規模の小さい魔術ですか?」

「魔術戦で俺の足を引っかけた魔術があっただろう。あれを見て繊細な魔術が得意だと思ったんだ。小規模な魔術をアレンジしたらカノンなら何か面白い魔術が出来そうな気がする」

「……試してみます」

 今まであまり着目しなかった分、思いもしなかった魔術が作れるかもしれない。

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