その頃レベッカはというと

~特殊隊の寮・お風呂場~


「――ちょ、ちょっと待って下さい!まだ心の準備が……!」


 エレナとジェニーに強制連行された連れてレベッカは、訓練場からある場所へと移動していた。レベッカの前には1つの扉が……。突然の事で本能的に自己防衛をしていたレベッカは、当然その扉の奥が何の部屋なのかは分からないが、必死でそこに入る事を拒み踏ん張っていた。


 だが、エレナとジェニーも実力者。レベッカも流石に2人相手では敵わなかった。


 ――ガチャ……。

「アハハハ! さっきから何そんなに怖がってるのよ。 言ったでしょ?“裸の付き合い”だって。女同士仲良くお風呂に入るだけよ」

「そうそう。今日はここに来るだけでも疲れただだろう?堅苦しい挨拶も終わったし、後はのんびりくつろぎましょう」

「え……? 本当にただのお風呂……なの……?」


 レベッカが逆に戸惑ってしまう程、そこはごく普通のお風呂だった。「早く早く」と言うエレナとジェニーは既に服を脱いでいたのだ。


「な、なんだぁ。ただのお風呂か……。あの国王団だから気を張っていたけど、思ってたより皆ラフな感じで良かったぁ。エレナさんとジェニーさんもいい人そう――」







 ……なんて、レベッカが思ったのは湯船に浸かるまで数分であった。


「それでぇ? ルカとはどんな関係なのよレベッカ」


 体を洗っている時は他愛もない話をしていたレベッカ達であったが、湯船に入るなりジェニーが何とも主張の強いフワフワな胸を押しつけて、レベッカの片腕をギュっとホールドしながら聞いた。反対側の腕はエレナ。


 ニヤニヤしながら腕を絡めてくる2人、レベッカは最早逃げられなかった――。


「どんな関係って……あの、ただ同じパーティだけど……」


 少し恥じらいながら言うレベッカに、すかさず切り込んで来る2人。


「いやいや、だって健全な男と女が何か月も一緒に暮らしてるのにさ、何もない訳ないでしょ!」

「そーだよレベッカ!よく見たらそこそこ顔も悪くないし、レベッカも全然ありなんでしょ?さっきルカが私の胸見た時一瞬で殺意放ったもんね!」

「い、いやッ、私そんな事……⁉」


 レベッカ本人は勿論そんなつもりはなかった。ただジェニーが言う様に、一瞬胸に視線を奪われたルカに対して何とも言えない気持ちをしていたのは嘘ではない。


 そしてそれをジェニーにまんまと見透かされたのが余計にレベッカは恥ずかしかったのだ。


「フフフ、素直じゃないねぇ。で、2人はどこまで“した”のよ?」


 レベッカの初心な反応をみたエレナが悪戯っぽく耳元で囁いた。


 それに対し、レベッカはつい先日の出来事が頭を過っていたのだ――。


「どこまでも何も……な、何もしてないよ……!」

「アハハハ!レベッカって隠し事出来ないタイプだ」

「しょうがない。口を割らないなら“出番”だよジェニー!」

「了解!レベッカ、私のここ見て」

「ここ……?」


 ジェニーは自分の額を指差しレベッカに見せた。


 すると次の瞬間、うっすらとジェニーの額に線が見えたかと思いきや、それがグワっと開き突如“眼”が現れた。


「きゃッ⁉」


 思わず声を上げるレベッカ。ジェニーとエレナは変わらずニヤニヤしている。そして……。


「魔眼……“真実を晒す眼ヴァールハイト”!」


 

 古来より、魔眼に見られた者は魔眼の力に絶対抗えないと語られていた――。


 そして、ジェニーの魔眼はまさにその言い伝え通り。


 魔眼に見られた者の意図とは反して、レベッカはつい先日のルカとの出来事を話し出していたのだった――。



 ♢♦♢


~ルカの家~


 話しは遡る事3日前――。


 一通り身支度を済ませ、後はネオシティに出発するだけとなったルカとレベッカは、これまでの事とこれからの事を総じ、2人で初めて一緒にお酒を飲みながら楽しい時を過ごしていた――。


「ん~! このお酒飲みやすくて美味しいね」

「そうか? なら良かった。お店の人のオススメだったんだ」

「うん、凄い美味しい。ありがとうルカ。これならたくさん飲めるかも!」

「ハハハ、別にたくさん飲まなくてもいいんだよ」


 何気ない会話をしながら、2人はお酒と共に楽しい時間を過ごしていた。


 身の回りの事も一段落して気持ちに余裕も出来ていたのだろう。


 確かに楽しい時間を過ごす中で唯一、ルカは勿論の事、レベッカは本人も忘れていたのだ……。


 自身がお酒に“弱い”事を――。





「ルカ~!一緒に寝よ!」

「レベッカ、お前酒弱かったんだな……」

「早く一緒に寝よ~!」


 いっそ酒が弱いなら記憶も全部なくなれば良かったのにと思うレベッカであったが、生憎この夜の出来事は覚えていた様だ……。


「一緒に寝られる訳ないだろ。酔ってるならもい寝た方がいいぞ」


 ルカは苦笑いしながらそう言ったが、レベッカはまだ寝ないと言い張っていた。だがルカは何とか2階まで連れて行き、レベッカを寝室に寝かせたのだった。


 しかし、納得いかなかったレベッカはとりあえず寝たふりし、ずっと聞き耳を立てながらルカが寝静まったのを確認していた。


 そして物音が完全にしなくなったところを見計らいレベッカはルカの部屋に侵入。ルカもお酒が入って気持ちよく寝ているせいか、全く気付く様子がなかった。


 まだ酔いが回っているレベッカは寝ているルカの顔をつねったり触ったりと悪戯していたが、少しだけ空いた窓から入ってくる夜風が肌寒く、それに相まって睡魔にも襲われたレベッカはルカの布団に入り込んだのだった。


「寒いなぁ……。しかも急に眠くなってきたし、このまま此処で寝ちゃ……」


 皆まで言いかけ、レベッカはいつの間にか深い眠りについていた――。












「――ん……」


 窓から差し込む日差しによって、レベッカは重い瞼をゆっくり動かした。


(あれ……もう朝……?)

 

 朧げな意識の中、眩しい日差しに再び瞼を閉じると、突如レベッカの真横で声が響いた。


「レベッカ、起きたか?」


 その声でレベッカはパッと目が覚めた。


(え、ちょっと待って……⁉ ここ“私の部屋”だよね……? 何でルカの声が聞こえるの……⁉ そ、それに……何か私以外の人肌を感じるんだけどッ!ううん、って言うか体が接触してない……⁉ 何でッ⁉)


 一瞬にして頭が正常化していく――。


 酔いも寝ぼけも完全にすっ飛んだ。


 レベッカはどうしようもない程抑えきれない恥ずかしさを必死で抑え、自分の“胸”に感じる暖かさを恐る恐る確認したのだった。


「……ル、ル、ル……ルカ……⁉」


 視線を自らの胸に落とすと、そこには紛れもないルカの頭部があった。しかもレベッカの胸に顔を埋めている状況だ。しかもレベッカ本人が自らホールドしている形になっていた――。


 状況を理解すればするほど顔が青ざめるレベッカ。


 自分でも全く状況が整理出来ない。そもそも自分の部屋ではなくルカの部屋。しかも自ら胸に抱きしめているルカの顔は、何故か直接肌感を感じている……。


 つまり、レベッカは服を着ていないという事実が新たに判明された。そして更に顔からは血の気が引いて行く……。


「レベッカ……?」

「あ……お、おはようッ! ルカ!」


 困惑し過ぎて声が裏返るが、最早レベッカはそれどころではない。一刻も早くこの状況を打破したかったのだ。


「やっと起きたみたいだな……。取り敢えず俺はこのまま目瞑ってるから、早く服着てくれる?」

「わ、わッ、わ、わ……分かりました~ッ!!」


 そうしてレベッカは超慌てて服を着るや否や、自分の部屋に猛烈ダッシュで戻っていった。


 これがつい3日前の出来事である――。


 ♢♦♢


~特殊隊の寮・お風呂場~


 そして話は再びお風呂場へ戻る――。


「えぇ⁉ その状況でルカは何もしなかったの⁉」

「あり得ないんだけど! 女に恥かかせて」


 話を聞き終えたエレナもジェニーも何やら怒っている様子。レベッカ本人も恥ずかしさが先行していたが、改めて冷静に思い返すと、あの状況で何も無かったという事は……そういう事なのだろうと思い知らされた。


 そう思ったレベッカはふと切なさが押し寄せていた……。



「魔眼なんてズルいよ……。本当に恥ずかしい事なのに……」

「ねぇエレナ、今の泣きそうなレベッカ更に可愛くない?」

「確かにコレは破壊力があり過ぎる! これでよくルカは耐えたな……。あいつ聖人か何かか?」

「私が男なら間違いなく襲うね。それに乙女としては、その状況で何も無いって事が逆に傷つくわよ」

「そこよ! ここぞと言う時にはちゃんと手を出してくれないとなぁ」

(あれ、何か恥ずかしいだけじゃなく頭がフラフラする……。これお風呂から上がらないとまずいかッ……『――ザプンッ!』

「「レベッカ⁉」」


 その刹那、レベッカは湯に沈んだ。


 どうやらのぼせた様である――。

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