16 まさかのドラゴンと遭遇です

♢♦♢


「レベッカ……大丈夫か?」

「う、うん……なんとか。これもルカのオリジナル薬草のお陰だね……」

「よーし……。じゃあギルドに向かうか……」


 あれから訓練は日付が変わるまで続き、少ない睡眠時間を経た俺達はこれから招待された討伐隊に参加する為、集合場所のギルドに向かった。


 体調を万全に整えるどころかもう最悪……。訓練に体力を使い過ぎて憔悴している。


 俺とレベッカはこれから討伐するとは思えない程に疲労した状態でギルドに着いた。今回の討伐は国王もいるが冒険者もそれなりに多い。全員で集合し、此処から目的地までは転移魔法で飛ぶ予定となっている。


 ギルドに到着すると、既に結構な数の人が集まっていた。ざっと200人ぐらいはいるだろうか。人混みの中で俺はフリードさんを見つけた。この討伐は国王もいるから当然Sランク冒険者が数人担当している。護衛の騎士団も然りだ。


「おはようございます……。フリードさんも参加するんですか?」

「おはようルカ君!そうだよ、今年は僕が担当だからね。後はリアーナとドルファンもいるよ」

「あ、そうですか」


 つい数時間前に俺を攻撃してきた人達がこれでもかと集まってますね。こんな早くまた顔を見るとは。申し訳ないですがちょっと距離を置きたいです。はい。


 そんな事を思っていると、もう集合時間になっていた。そこへグレイ達が小走りでやってきた。


「……! おい、何でお前がいるんだよルカ!」


 グレイは俺を見た瞬間、嫌悪感を露にしながらそう吐き捨てた。横にいるラミア達も何か言いたそうに俺を睨みつけていた。


 本当に気分を害する奴らだ。


「そんな事を言われる筋合いはねぇ。俺は国王に招待されたからいるだけだ。お前達に関係ないだろ」

「なに? 何だよお前その態度! 国王からなんてまた嘘付きやがって!最近ランクまで上げてるらしいが、一体どんな卑怯な手使ってやがるんだコラッ!」


 余程俺の事が気に入らないのか、グレイの怒りのボルテージは早くも最高潮の様子。


「嘘じゃないさ。僕がしっかりとルカ君に招待状を渡したからね」


 俺が呆れて黙っていると、フリードさんが仲裁に入ってくれた。グレイも当然この人を知っている。まだ物申したそうな顔つきであったが、諦めた様に舌打ちをしながら去って行った。


「すみません、フリードさん。助かりました」

「いや。別に僕は何もしてないよ。ただ事実を言っただけだし」


 優しく微笑んでくれたが、俺は訓練の時のあの恐怖を暫く忘れられないだろう……。


 そんなこんなで俺達討伐隊は出発したのだった――。


♢♦♢


~サンクス街~


 大人数の転移魔法はかなりの魔力を消費する為、今回の討伐の目的地である所から1番近い街に先ずは転移した。ここで1泊し、明日再び転移で目的地へと飛ぶ、他の街から向かっている別の討伐隊と合流する予定だ。


 決して大きな町ではないが、多くの商店がありとても活気づいている。討伐に参加した冒険者達はそれぞれ買い物したり観光したりと、明日の討伐前にリラックスした様子で過ごしていた。


 そんな中、俺とレベッカは俺のオリジナル薬草を補給しつつ宿で休んだ。皆と違って体調が最悪だからだ。疲れがまるで取れん。


 本当にあの人達さ、手加減って事を知らないのかな? 実力あるSランク冒険者なのに。ジークも意外と面倒見が良いというかスパルタというか……。レベッカも限界まで追い込まれたらしいからな。


 俺が宿のベッドで横たわっていると、凄い勢いで部屋の扉が開いたかと思いきや、突如リアーナさん駆け込んで来て俺を叩き起こした。


「――ねぇルカ君!ちょっと起きくれる!ねぇってば!」

「え……?な、何ですかリアーナさん……」

「こ、これッ! この“薬草”って君がオリジナルで作ったって本当なの⁉」


 凄い勢いのリアーナさんは薬草をぐっと俺の目の前まで突き出しそう聞いてきた。確かに彼女の持っているのは俺が作った薬草。訓練に付き合ってもらった皆にせめてものお返しにとあげた物だ。


「え、確かにそうですけど……それが何か? 俺疲れてるんですけど」

「どうやって作ったのコレ!」


 別に珍しくもないけど、何やら凄い知りたそうな顔をしていたので、俺は作り方を教えてあげた。


「へぇ~。その調合でこの薬草が……」

「では、おやすみなさい」


 本当に疲れていた俺は倒れる様に寝た。



~サンクス街・某所~


「――これは凄い……。普通の回復薬よりも数倍の効果があるわね。しかも状態異常も回復出来るなんて……」

「へぇ。これをルカって言う昨日の少年が作ったのか? ジークリートの召喚でも驚いたが、薬草の知識まであるとは秀才だな。もっと早く教えてくれれば今日の討伐でも用意したのにな」

「本当にルカ君はとんでもない逸材だわ……!さっき作り方は聞いたので、明日までに出来る限り私が作っておきます。手の空いている魔法使いを集めて下さい」


 眠りについた後、リアーナさんとドルファンさんがこんな話をしていたなんて、俺には当然知る由もない。


 そして……。



(――何だとッ……⁉ 普通の回復薬の数倍効果がある物だって? しかもそれをルカの野郎が作っただと⁉


どこまで有り得ない手を使ってやがるんだあのクソ。しかもこうやってSランク冒険者の奴らに媚びを売ってやがったか。どうりでルカ如きがAランクパーティまで上がった訳だ……!


畜生。あの野郎パーティを抜けても尚、俺達の邪魔をするのか。何処までイラつかせれば気が済むんだッ……!クソクソクソクソッ!


アイツさえいなければ俺達がこんな醜態を晒す事だってなかったのによッ――!!)

「今の話本当なの……?」

「有り得ねぇだろうがよ……。あのルカだぜ?」


 たまたまリアーナさんの話を聞いてしまったグレイ達が、俺のオリジナルの薬草の正体を知ったらしい。


 だが当然、寝ている俺にはこんな事態を知る由もなかった。


♢♦♢


 翌日――。

 雲1つない晴天に恵まれながら、俺達は遂に討伐の出発時間を迎えた。休んだお陰で調子も大分戻っている。討伐隊である冒険者と騎士団が皆集まり、出発直前に国王から最後の説明と激励が言い渡された。


 今年の討伐対象は“ガーゴイル”だ。

 人間の似た体つきでありながら、肉体は強靭であり悪魔の様な顔をしている。大きな翼を携え、その魔力の高さと鋭い牙と鉤爪が特徴であるSランク指定のモンスター。


 ランクの低い冒険者にとっては大変だが、Sランク冒険者が3人もいるとなれば余裕だ。他を庇いながらでも戦えるだろう。


 ガーゴイルはガメル山脈の頂上付近にある深い洞窟に生息している。

 転移魔法で山の中腹まで一気に飛んだ俺達は、そこから綺麗に隊列を組みながら山頂の洞窟を目指し進んで行った。そしてその途中で他の街から招集していた他の討伐隊とも合流。


 “本来”であれば、コレは余裕のクエスト――。


 毎年開催される王国の催し物でもあるから、命の危険に晒される事などあってはならないし、誰も望んでいない。そんなの当たり前だ。


 だが……この世に“絶対”など存在しない。


 不測の事態が起こってしまうのもまた、自然の摂理と言えようか――。






「ドッ、ドラゴンだッ……!!」






 予想だにしていなかったこの一言によって、場が一気に緊張感に包まれた。


「どうなってるんだ⁉」

「討伐するのはガーゴイルじゃないのかよ……!」

「な……何でこんな所にドラゴンがッ⁉」


 山頂を捉え、これから洞窟に入ろうとしていた俺達の行く手を阻むかの如く、誰も予想していなかったであろう“ドラゴン”が突如飛来した――。


<ほう。奴は紅翼の“ルージュドラゴン”ではないか>


 静かにそう口にしたジーク。

 全長20mは優に超えるであろう大きさと、何とも言えぬ存在感。硬そうな鱗と鋭い牙が並ぶ口元からは度々炎が漏れ出ている。全身が紅色に包まれたルージュドラゴンは天に向かって激しい雄叫びを上げた。


「あ、あれってドラゴン……だよね? 私初めて見た……!」

「俺もだ……」


 モンスターが蔓延るこの世界において、そのモンスターの中でもドラゴンはまた異質な存在だった――。


 僅か数十頭しかいないとされるドラゴン。それは存在自体が希少であり中々遭遇する事がないのだ……。


 その場にいた多くの者がドラゴンの姿に圧倒されている。


「――マズい! 全員下がれッ!!」


 ルージュドラゴンが僅かに仰け反った動きを見せた瞬間を、フリードさんは決して見逃さなかった。そして次の刹那、ルージュドラゴンから“来る”と直感で感じ取ったフリードさんは、既に反射的に大声を上げていたのだ。


 フリードさんの直感は正解。

 大声で撤退の指示を出した瞬間、ルージュドラゴンが俺達目掛けて炎の咆哮を放ってきた――。

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