2-12 ティエスちゃんは便利家電

「A分隊、野営準備。B分隊は周辺警戒。かかれっ!」


『サー・イエッサー!』


「A分隊、まずは草刈りだ。30分で一流ホテルを作るぞ、気張れよ」


『了解!』


 現在時刻は18時に10分前。おおむね目標通りのタイムで到着できてひと安心なティエスちゃんだ。ここをキャンプ地とする!!

 野営地の下草がすごかったのでまずはテントサイトを確保しないとな。芝生のレジャーキャンプ場が恋しいぜ。

 ここは軍の管理してる演習場の一角だが、正直なところそれは「軍が所有している土地」という以上の意味を持たないのっぱらである。定期的に違法滞在者が居付いていないかの確認くらいは行われているだろうが、それ以上の管理は行われていないのが実情だ。まぁこれも訓練の一環ってわけやね。

 草刈り鎌の持ち合わせはないが、ナイフで十分対処できる。結構コツがいるんだが、まあそこは腐っても軍隊なのでね、訓練隊で叩き込まれてるってわけだ。本当は火でもかけて燃やしちまえば手っ取り早いんだが、前にそれをやって山火事を起こしかけたアホがいるので固く禁止された。誰かは聞くな。


「エルヴィン、草を刈る時はな、ここをこう持って、こうやって刃を当てて、こう、ガッと引くんだ。ガッとな。やってみろ」


「説明が抽象的すぎる……えーと? これをこうして、ガッ。……こんな感じ?」


「おいおい呑み込みがはえーじゃねーの。その調子でどんどんやってくれ。ああ、そんなに広くなくていいぞ。テントが4つ張れればいいんだ」


「りょーかい」


 こいつマジでスポンジみたいに吸収力高いな。座学だけじゃなくて実地もこれか。体力のなさは玉に瑕だが、まぁそれは成長に伴ってついていくだろうし、鍛えりゃいいだけの話だ。何より目に見えて披露しているのに弱音ひとつ吐かず作業に邁進しているのはナイスガッツ。鍛えがいがある。とはいえ無理して倒れられても困るので、よく見とかねーとな。手のかかるやつだぜ。

 そんなこんなで草刈りはものの十数分で終わった。次はお待ちかねテントの設営だ。


「草刈りそこまで。ご苦労、次はテントだな。エルヴィン、テントの組み方はわかるか?」


「さっぱり」


「そうか、じゃあよく見とけ。なに簡単だ。軍用っても民生品のそれとそれほど違いはねー」


 テントは一式が袋にまとめて入っているので、まず梱包を解く。最初に地べたに断熱シートを敷いて、フレームを組み立て、防水布をかぶせてペグを打ち、はいこれで完成だ。慣れれば一人でも5分あれば組み立てられる。ね、簡単でしょ? 形状は横倒しの正三角柱みたいなタイプだな。スナフキンのテントみたいなやつだと思ってくれればいい。


「ティ、中隊長って、ちゃんと軍人なんだよな……」


 俺の手際の良さに、エルヴィン少年が舌を巻く。なんかそこはかとなくdis感強いワードチョイスだが私は許そう。へへ、こそばゆいぜ。


「んだよ今更。惚れたか?」


「仕事ぶりには、割と。人間的には全然」


「へっ、ガキがナマいってんじゃねー」


「わっちょっ」


 ったくひねくれたガキだぜ。なでなでしちゃお。俺はエルヴィン少年の肩にガッと腕を回し、頭をガシガシと乱暴に撫でまわす。胸が当たってるって? 当ててんのよ。

 見渡せばA分隊の隊員たちは作業を終えて直立不動の姿勢でこちらに生温かい視線をくれている。……一部興奮してるやつもいねーか? いい趣味してやがる。こんど語りあかそうな。

 俺は一つ咳払いをして、号令を発した。


「ご苦労諸君、メシの時間だ。19:00にB分隊と交代するまで自由休憩とする。あったかい飯が食いたい奴は俺かハンスに言え」


『了解! うおお!』


 フフ、喜んでる喜んでる。やっぱ飯は心の糧でもあるんだよなぁ。士気に直結する大事だ。

 俺もいそいそと背嚢から晩飯のレーションパックを取り出し、火魔法のちょっとした応用でレンチンした。この世界、魔法があるから煮炊きの煙の心配をしなくていいんだよな。水魔法使いか土魔法使いがいれば清潔な水の心配もない。だから王国陸軍では部隊には必ず一人以上の魔法使いが配置されるよう人事が調整されている。

 しかし安全な水を常時現地調達できるってのは恐るべきアドバンテージだよなあ。前世の連中が聞いたらハンカチ噛んで悔しがりそう。俺はレーションパック付属の即席スープに湯を注ぎながらそんな益体もないことを考えた。


「あっ、中隊著ー。俺にもお湯戴けますかー!」

「加熱お願いしまーす!」

「ジブン猫舌なんで、できれば人肌くらいの温度で加熱していただけるとありがたいのですが!」

「ふへへ、中隊長のお湯で作ったスープは最高だぜ」


「だー! たかるなたかるな馬鹿ども! 俺は便利な白物家電じゃねー! てかハンス! てめーは自分でできるだろうが! てめーでやれ!!」


  群がる部下どもに文句をたらたら言いながらも、まんざらでもないティエスちゃんなのであった。

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