ロシュ国(4) 昔話と試食
ヴィラではなく、森から一時間ほど歩いたところにあるロロガの街の宿までふたりを送り届けた先生と私は、その足で街に住む
「……そういうわけだ。よろしく頼むよ」
「アシュティさまにお願いされたら断れませんね。私が責任を持ってお預かりいたしましょう」
「君が
それだけ言うと先生はさっさと出ていってしまった。エルシュカは腰のあたりまであるふわふわの赤毛を揺らして何度も頷いている。あまりに嬉しそうに緑の瞳を輝かせていたので理由を聞くと、先生の妹弟子であるエルシュカは大きな体を愉快そうに震わせながら昔話を語ってくれた。まだ先生が星無し
「アシュティさまは学者になりたかったけど、貧しかったからお金の稼げる
「『殺す方法を知れば生かす方法がわかる。生かすことのほうがずっと難しい。だから多くを学びなさい』と師匠はよく言ってたわ」
その言葉を聞いて、アシュティ先生は
有言実行で見事
「ルルイ、アシュティさまをよく見ててあげてね。危険な道に突っ込んでいってしまわないように」
「先生の強さはエルシュカさんもご存知でしょう?」
「アシュティさまは師匠に一番似てるから心配なのよ。いつか誰にも何も言わず、どこかに行っちゃいそうで……だからルルイがしっかり横で見ててね。あんたがいればアシュティさまは無茶をしないから」
両手をとってぎゅっと握りしめられ、私は少し引き気味に頷いた。先生とエルシュカの師匠は十三年前、突如姿を消したのだという。誰にも行き先を告げることなく。それから彼女を見かけたという人はおらず、今ではどこかで亡くなったのだろうという人も多いそうだ。
「さ、昔話はここまでにして、私の弟子になる子達とやらを迎えに行こうかしらね」
一瞬湿っぽくなりかけた空気を振り払うようにエルシュカが店を閉める準備を始める。すっかり日の落ちた空には星が輝き始めていた。
東の空を駆ける猟犬の鼻づらで白く輝く
◆ ◆ ◆
無事にふたりをエルシュカに託したあと、先生と私はロシュ国に向けての旅を再開した。道中、彼らの元師匠ハーリヤがどうなったのか気になって先生に聞いてみたところ、一週間ほど森の中につるされてすっかり弱っているところをエルシュカが回収したらしい。人体実験に子供の誘拐、毒薬の密売と悪事の限りを尽くした彼女は
ロシュ国までの道中、群生地の調査は一か所を除いておおむね良好だった。そのため特に特筆すべき場所のみ記載する。
去年群生地を訪れた際に乱獲者の一団とひと悶着あったルヴァム(注:一時麻痺の解呪に使用する。多量に使用すると幻覚を引き起こす)の数は回復傾向が見られた。
アミアン(催眠魔法の解呪に使われる)群生地は噂で聞いたとおり、ここ数年の
ちょうど訪れた時期が繁殖活動時期だったため、調査中に昼夜問わずビビーチョウが鳴き続けているのはなかなかに厳しいものがあった。一羽がさえずっている分には美しい声に聞こえるかもしれないが、大合唱となると耳栓をしていても突き抜けてくるほどの音量だ。大量繁殖の一因として、繁殖時期の大声が近所迷惑になり、飼いきれなくなって森へ逃しに来る人が年々増えているらしい。
騒音に困っていた私を見かねたのか、調査一日目の終わりに先生が消音魔法を教えてくださった。早速実践してみたが、最初は効果が弱すぎてあまり効果がなかった。二回目は強めにかけてみたら一時間ほど全く何も聞こえなくなってしまい、調査を一時中断せざるを得なかった。視覚や聴覚に関わる魔法の制御は難しい。
気を取り直して調査内容の記述を続ける。ビビーチョウは体の中に取り込んだ
余談だが、せっかくの機会なのでビビーチョウを捕まえて食べてみた。鶏の半分ほどの大きさであまり肉の量は多くないが、不味くはなかった。
臭みがあるのは羽が赤系のビビーチョウで、がっつりスパイスをかけてステーキにするか、下茹でをしてからカレーに入れるととそこそこいける。青系は淡白な魚っぽく、香草と共にソテーにすると美味しい。緑系が一番鶏肉に近い味。ふわふわで脂が乗っていて、そのまま焼くだけで美味しかったのは二色以上の色が混ざりあったビビーチョウだ。
いっそ食用鳥として売りだせば、数を減らす手助けになるのかもしれない。
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