信じたくないこと

「え、奏汰が……池に……?」


 教えてくれたのは、慌てた様子で帰ってきたお父さんだった。お父さんは帰ってくる途中、近所の人に「優里と同じ学年の少年が、ユメ池から引き上げられた」ということを教わった。夜釣りをしていた釣り人が発見したらしい。話を聞いたお父さんが現場に行ってみると、まさにそのとき、奏汰が救急車に運ばれていくところだったという。


「助かるの……? 奏汰は助かるんだよね……?」

「わからない。意識はなかったそうだ……」


 あまりにも、衝撃的すぎた。帰り道、僕たちは当のユメ池の話をしていたのだ。それがよりによって、ユメ池で……


 この晩、僕は奏汰の無事を神に祈った。どうか、僕の友達を助けてください……と、必死に祈った。祈ったけれど、それはどうやら神様には届かなかったらしい。


 翌日、奏汰の死がお母さんから告げられた。池から引き上げられたとき、すでに肺も心臓も動いていなくて、助かる見込みはなかったらしい。結局、昨日の夜に搬送先の病院で死亡が確認されたのだという……

 奏汰が死んでしまった――その日はショックで、家の外まで足が伸びなかった。僕の気持ちを察したお母さんは、特に小言を言うこともなく学校を休ませてくれた。


 お父さんもお母さんも仕事に行っていて、僕は家で独りだった。何となくリビングのテレビをつけてみると、普段見たことがないような番組がやっていた。平日の午前中に家でテレビを見る機会なんてそれこそ春夏冬の長期休みぐらいだから当然だ。平日午前の家の中という空間が、何だか新鮮に感じられた。

 

「ウソ……だって奏汰は……」


 あのとき、僕と一緒にくっちゃべりながら歩いてたじゃないか……死んだなんて急に言われても、現実味が湧いてこない。

 気づけば僕はスマホをいじって、奏汰に電話をかけていた。奏汰が死んだなんていうのは真っ赤なウソで、電話をかけたら出てきてくれるんじゃないか……そう思ったけれど、やっぱり返事はなく、呼び出し音だけがスマホのスピーカーからむなしく鳴り響いていた。

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