【完結】親友と2人で異世界に召喚されました〜聖女は譲らないと言われても王太子が私を離してくれません〜

あずあず

第1話プロローグ

「あなたもお終いね、優奈」


耳元で私にだけ聞こえる小声でそう言って、花梨は不敵な笑みを浮かべた。


ざまあみろと言葉に出さず唇が動いた。


そして、わっと泣いてみせた。

「優奈、酷い!私はあなたを親友だと思っていたのに!」


「それは、こちらのセリフだわ…」

だめだ、喉が張り付いてうまく声が出せない。


「私を突き飛ばそうとするなんて、暴力だわ!」


王宮会議室の中で皆が私に冷たい目線を向けた。


(なぜ、声が出ないの?助けて、誰か―)


「皆さん、この女-優奈がどれほど醜く稚拙で人格までも破綻しているのか、もうお分かりになったでしょう!?」


(美醜の問題は横に置いても、人格や教養までも否定するのね、あなたは)


「私こそが聖女なのです!その証拠に自在に炎を出すことができます!」

花梨はそう言って両手を拳にして前に突き出し、炎を出して見せた。


「う、うぅむ…いや、だがしかし…」

議事進行をしていたローゼン伯爵は目を泳がせた。

そして、自国の王、レオンダイナル国王陛下へ目線を送った。


国王はことの成り行きを見届けて言い放った。

「ふむ?君たちは互いを大切に思う友だったのではないのかね?それに、ユーナは体調が優れないようだが」


「こくお…う…さま」

(花梨は嘘をついています)


「様子が変だね、誰か水を持ってきてやりなさい」


侍従が水を持たせてくれたが、手に力が入らずグラスを高価そうな赤い絨毯の上に落とし、見事に割ってみせた。

そして私は-ゆっくりとくずおれた。ところをガッシリと受け止められた。


微かに気品のある香りが鼻腔を突く。


「ユーナ…君は何を飲まされた…」

その人に覗き込まれ、私の顔に影を落とす。


「エリオル王子、なぜあなたがここに?」

「王子!」

「エリオル王子!」

ざわつく室内。口々に飛び交う声。


(エリオル王子…この人は、本当に綺麗な顔をしているんだな。深い緑色の目だ。まつ毛が濡れてきれい。でも-どうして)

私は朦朧とした意識の中、思考を泳がせる。


エリオルと呼ばれたこの国の王太子は、意を決した表情で、ほんの少し高い声を発する。

「国王陛下、恐れながら」

「言ってみなさい」

「私はこのユーナを妻に迎えたいと思います」


(―はい?)


「彼女は薬を含まされたようです。医者を。時間がない、早く!」


(そうか、薬を盛られたからこんなに-)


私は気を失う寸前、花梨の不敵な笑みが消えていないことに気づいた。




私はもともと現世でOLをしていた地味な女だった。

飛び抜けて何があるでもなく、全てが普通だ。


楽しみといえば友達とカフェでランチしたり買い物したりといったありふれたものだったし、メイクもヘアスタイルもナチュラルを通り越して地味であることは大いに自覚していたところだ。


小学生からの親友、花梨とは休日の多くを共にしたし旅行に行ったり、恋バナもたくさんした。

本当に大事な友達だった。


あの日までは―


(花梨、どうして。心の中では私を笑っていたの?)


『今日も友達とランチ。私の友達かわいいでしょ』

と題されたSNSには、しかし私は下からのアングルに加えて、半目。対して花梨はかわいく加工されて全てが完璧だった。

私が知らない隙に撮った写真。


もちろんコメント欄には

『花梨ちゃんの友達なの?これが?ぶさ、びっくり』

『花梨ちゃんかわいいのに友達ひどい…』

といったコメントが続いていた。


『そんなこと言わないでぇ!友達かわいいもーん』

と返信していた花梨には悪意しか感じなかった。


花梨のアカウント、知らなかったな、全部私と撮った写真だ。

これもこれもこれも、どれも全部私を下げて花梨を上げるための写真だ。


花梨は確かにとても可愛かったし可愛くなる努力を怠らない子だ。

今は辞めたらしいが、芸能事務所に所属していたこともあった。

でもそれは人と比較して成り立つものじゃない。


それに-こんな悪意のある写真の撮り方…私に許可もなく写真アップして利用するなんて許せない。


私は花梨を呼び出し詰問した。


「信じられない、こんなこと。私たち友達だと思っていたのに」

「そうよ、オトモダチよ。あなたが隣にいるだけで、私の可愛さが引き立つんだもの」

花梨はスマホから目も離さず言い放った。

「花梨…!」

「何よ。だったらもっと自分でなんとかしたら?いっつもいっつも地味なカッコして。メイクだって変わり映えしないし。仲良くしてあげただけ有難いと思ったら?」

「私は一人暮らしだし、それでもなんとか節約してやりくりした分で休日を楽しんだり、できる範囲で地味でもおしゃれしてるつもり。」

「だから何?働いて得るお金がそんなに凄いわけ?親ガチャに外れたからって言い訳がましいんだけど」


母のことを悪く言われて頭がくらくらした。

母が悪いわけじゃない。

父が亡くなってから女手一つで私を大学まで出してくれたのにーー


「うちは別に働かなくてもお金に困らないんだもの。週一はサロンでトリートメントしないと髪の毛痛むしぃ」

花梨はちゅるんちゅるんの明るい髪の毛を両手で撫でた。


「昔の花梨はそんなに見た目のことばかり言う子じゃなかったのに…変わっちゃったんだね。もう話すことはないわ。さようなら。あ、ちゃんとアップした写真は消しといてね」

「消すわけないじゃない」

「はい?」


信じられなかった。この女は―


「絶対消さないから」


私は花梨のスマホを取り上げた。

「ちょっと!返しなさいよ!」


揉み合いになり、互いに階段から滑り落ちて-ー




目が覚めた時には、知らない泉のほとりで2人横たわっていたのだ。

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