第二界—1 『刀ノ開界』

——


「……」


 崩壊した高校。その屋上に俺は……朝日昇流は寝転がり、太陽が昇り夜が明け淡い青に染まった空を見つめていた。

 何故世界が崩壊したのか、何故俺だけが存在出来ているのか……まずアーマードナイトってなんなのか、何も分からない。

 だが何も分からなくても現状の把握くらいは出来る。


 まず1つ、今俺の視界には青い空が映っていた。

 という事はつまり、世界のほとんどが灰色に染められている中でも海や川は青いまま……崩壊前と変わっていないという事になる。


「そして2つ……」


 独り言を呟きながら屋上に空いた巨穴の断面に触れる。

 その断面は崩れ落ちた後の様にガタついているのではなく、滑らかに……普通なら決してそうはならない様な入り組んだ形に歪まされていた。

 つまり分かったのは崩壊の原因は単なる破壊……物理的な現象ではなく、何かしらの能力、昨日の怪人が扱っていた能力と同じ様な何かにより世界自体が変化した……という事だ。

 そして——


「おい朝日! コンビニの食料は全部食えそうだぞ!」

「出来したナイト!」


 これが最後、3つ目の分かった事だ。

 ナイトは……この奇妙な鎧は中々便利であるという事。

 昨日の晩飯もナイトに冷蔵庫の中の物を使わせてみたら最高に美味いカレーを作ってくれた。

 他にも屋上までの階段が無くなっていた為乗せてもらったり……とにかく色んな事が出来て、そしてしてくれる。

 利用してやろうというわけではないが扱いやすくて助かっている。


「とりあえずカップラーメン持ってきたぞ」

「それお湯が無いと食えないやつ」

「食え」


 ナイトは食い気味に、圧をかける様に言って俺の前にカップを置く。

 パシらされたまでは良かったが調達してきた物を食べないというのは許さないらしい……まぁ当然か。


「……」


 普通に食べたくない。

 美味しいのか不味いのか、どちらなのかは予想できないが後者だった場合、崩壊した世界で初めて食べた……これからおそらく、相棒と呼べる存在となるかもしれない相手と初めて食べる物が美味しくない記憶と共に残ってしまう。


「……」


 ナイトがせっかく持ってきてくれたんだ……覚悟を決めろ……不味くても吐き出す事だけはするな、麺の欠片が口内を傷付けようと表情を歪めるな……何が起ころうと美味しいと、そう笑顔で言うんだ……!


「っ……いただきます!」


 食事開始——その合図を叫び……俺はカップから硬い、円柱状にまとめられた麺を取り出しかぶりついた。


「……美味しい」


 俺の第一声、思わず出た声は自分でも意外な物だった。

 噛み砕き、舌の上に乗せてみると程よくピリ辛くて癖のある味……一緒にコーラなどの炭酸飲料を飲みたくなる様な味が口内に広がる。


「美味いなら良かった」

「まじで美味い……取ってきてくれてありがとな」


 ナイトがカップ麺を選んでくれたおかげでお湯なしでも美味しいと分かった。

 それはつまり、カップ麺……インスタントフードという長期的な保存が可能な食料がお湯などの1手間が無くても食べられる。

 という事は生存確率が上がった事になる……この有能な鎧に対しては感謝しかない。


「で、昨日言ってたこの世界の調査はいつやるんだ?」

「ん? あぁ飯食い終わったらやるよ」


 怪人との戦闘が終わり、ナイトと分離した後……俺はこの崩壊した世界と元の平和な世界の違いや崩壊の原因……それを調査すると宣言していたのだ。

 昨日屋上まで登るついでに校内を調査をしても良かったのだが戦いの疲れが酷かった為何も調べず寝る事を選んだ……決して調査が面倒くさかったわけじゃない。


「にしても美味いな」


 さっきからずっとばりぼりと……硬めのスナック菓子を食べる要領で麺を噛み砕き、味わい続けているのだが全く飽きる気配がしない。

 水が欲しくなるくらい濃いめな味だから飽きにくいというのもあるだろうが……何よりもこの食感だろう。

 ある程度硬く、でも硬過ぎず……良い具合の歯応えのおかげで食べていて楽しい。

 美味しくて楽しい、となれば飽きないのも当然……


「流石に喉渇くなこれ」


 確かに飽きはしない……だが喉が水分を欲してこれ以上この麺を通す事を拒絶してしまう。

 口内は水で1度この濃い味を流す事を求め、喉は乾燥した麺の欠片により奪われた水分を取り戻したいと望む……冷静に考えてみれば予想出来たはずの、当然の現象だ。


「なぁナイト、飲み物も持ってきてくれたりは……」

「してないぞ、お前が頼んだのは食料だけだからな」


 普通飲み物も持ってくるだろ……そう言ってやりたい所だが俺は頼んだ側で、ナイトとは出来るだけ良い関係を作りたいから言えない……その言葉が喉ちんこに触れるギリギリの、すんでのところでグッと止める。


「……そういえば」


 唐突に思い出した……そして飲み物を入手する方法を見つける事が出来た……


「土曜にさ、教室に水筒忘れてたんだよな」

「飲むなよ」

「中身は麦茶」

「飲むなよ……!」

「よっしゃ調査がてら回収しに行くかぁ!」

「飲むなよ!!」


 段々とナイトの語調が強くなっている様に聞こえる。

 だが、特に気にせず無視して立ち上がり、教室の元に向かい……2日前の麦茶の元に向かい歩き出した。


「まじで飲むなよ!?」


 その心配する様な、焦った様な声は俺の耳には届かない。

 いや、届いてはいるが逆の耳から流れる様に追い出され灰色の世界と青い色の空に響き渡り、1秒も経たない内に消え去った。

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