君の好きな人

「佐々木くんはさ、好きな人とかいるの?」


 休み時間。嬉しくも未だ交流が続いている如月さんが、突然そんなことを訊いてくる。


 その内容が内容なだけに、湊斗は思わず胸を高鳴らせてしまう。そして確信も根拠もないのに、淡い期待が思考を埋め尽くしてしまう。


 正直に答えるのならYESと言うだろう。しかし、本人に言う気恥ずかしさからつい否定してしまった。


「…………いないよ」


「えー! 今の間絶対いるやつでしょー!」


 湊斗が少し考えてしまったからか、如月さんは人差し指を伸ばして指摘する。その顔は恋バナをするときの女子そのもので、キラキラとした視線を送ってくる。


 湊斗はこれ以上の追究から逃れるように、彼女に同じ質問を返すことにした。


「そう言う如月さんはいるの?」


 しかし湊斗は、質問を投げながら後悔していた。「いる」なんて言われたら、どんな顔をすればいいのかわからない。怖い。そんな気持ちが生まれ渦巻いていたからだ。


「私? 私はね――……………」


 そんな心境なんて知らぬであろう彼女は、頬を徐々に赤く染め、案の定最も聞きたくなかった言葉を口にした。


「……いるよ。まだ気になる人だけど………」


「…………え?」


 耳まで真っ赤に染める如月さんの顔を見て、湊斗は嫌々ながらも理解した。いや、してしまった。



 その言葉は、冗談ではないのだと――…。



「そ、そっかぁ」


 湊斗が絞り出せた言葉は、それ一つだけだった。一方如月さんは恥ずかしそうに頬を両手で隠し、口を開く。


「ま、真面目に答えると大分恥ずかしいーっ。わ、話題変えよっか! うん、それがいい!」


 そう口にし、テンパった様子で違う話題を話し始めた如月さんを目の前に、湊斗は必死に作った仮面偽物の笑顔で相槌をうつのだった。



 その夜、湊斗は自室のベットに倒れ込むようにしてダイブすると、そのままピクリとも動かなくなった。


 ――如月さんに気になる好きな人がいる。


 湊斗にとって、その事実は失恋を意味するものだった。


 如月さんの好きな人は、きっと優しくてかっこいい人なのだろう。


 気遣いができて、自分の考えを持っていて、それでいてそれを伝えることができる。


 そんな尊敬できる人なのだろう。


 ネガティブ思考が湊斗の頭を支配する。考えたくもないのに、湊斗が想像で作り出した彼氏と共に並ぶ、如月さんの姿が頭に浮かんでしまう。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………」


 湊斗は大きな溜め息を吐く。そして湊斗は現実から目を背けるように、ゆっくりと重い瞼を閉じるのだった。

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