第2話 朝の幼馴染

 それはある日の土曜日の出来事だった。


「おっはよ~零二~」


 陽気な声に、俺は目を覚ました。


「ん………ん~。おはよう」


「もう、お寝坊さんにはお仕置きしちゃうぞ?」


「分かったから………………………俺の上からどいてくれないか?」


 馬乗りの状態で、俺に顔を近づけている奏に苦笑を浮かべる。


「えぇ~、なんでよ~。私はこのままが幸せなんだけどな~?」


「どこぞの新婚夫婦だよ」


「大丈夫よ!私たちは高校卒業したら結婚するんだから!」


「いつ、俺がそんな事を言った?」


「だって、私たち結構相性いいし、生まれた子供は絶対に零二くんみたいにイケメンになるわよ!」


「子供まで出来る想定なのかよ…………………」


 ため息交じりに、上に乗っかっている奏の肩を押しながら、俺は体を起こした。


「もう、零二はツンデレさんなんだから」


 語尾に♪が付くようなウキウキな声をしながら、綺麗な色をした髪をなびかせベッドから飛び降りた。


 身長153センチ、体重は詳しく知らないが軽い。生まれつきのキレイなワインレッド色に染め上げられた髪は横で編み込まれており、大きい目で見つめられた時の破壊力と言ったら半端ない。


 だけども、ベッドを飛び降りた時に机の椅子に足が当たったからか、ドスンと鈍い音が朝日が差し込む部屋に響いた。


「痛ったぁ~い!」


「だ、大丈夫か?」


 ベッドに腰掛けながら、床でジタバタと暴れている奏を見る。


「ちょっと、見てないで助けなさいよ~!」


「この状況で俺はなにもすることはないぞ?」


「あるわよ!ぶつけた場所に『痛いの痛いの飛んでけ~!」ってするか、頭ポンポンするとか色々あるでしょ!?」


「お前は幼稚園児かよ」


「ムーっ」


 顔をしかめながら体育座りをして俺に上目遣いをしてくるが、それを横目で一度見ると、横を通り過ぎて着替えを取りに行く。


「なんで無視するのよ!」


 クローゼットの前に立つ俺の足にしがみつき、顔を擦り付ける。


「朝からウザったいなぁ~、お前って奴は」


「これは無視した零二が悪いんだからね?」


「朝からダルがらみをしてくるお前が悪いんだよ?それに毎朝隣人の幼馴染の部屋に堂々と侵入して馬乗りになるな」


「もー、零二くんはダメダメだわ」


 頬を膨らませながら不機嫌な顔をする。


「どこがダメダメだ。その言葉、そっくりお前に返すわ」


「ほら!そうゆう所!そんなんだから女の子にモテないんだよ?」


「うっせ、アホ!俺は別にモテたい願望なんて無いんだよ!」


 図星な発言に、少し声を張る。

 モテないのは仕方ないだろ?俺にはモテる要素なんて一つも無いんだから。


 身長も普通、顔も普通。勉強もテストの平均点の上下をうろちょろとしているし、運動もぼちぼちだ。


 こんな俺がモテたとするならば、ラノベ主人公だった時に限る。

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