第三話 浮遊都市 ドリーブ

 荒廃した赤褐色の大地に、点々と朽ちた塊が土に埋もれている光景が広がっている。

 レナーテは周囲の風景が視界に入らないようにフードで顔を覆い、砂に足を取られながら、少しうつむき、歩いてゆく。


…また、面倒なことを依頼されるのかもな。


 生気のない荒涼とした周囲の風景から、思い出したくもない過去の記憶が蘇り、あまり気乗りがしない、暗い気持ちにさいなまれる。

 レナーテ自身、普段ならこの地に近づく事は無かった。荒れ果てた地に足を踏み入れるのは、あまり気分の良いものではなく、ましてや依頼主になど会いたくはなかった。


 陰鬱な気分をフードで覆い隠し、砂に足を取られながら進んでゆく。

 フードの隙間からは、朽ちた塊がいやおうなしに視界に入り、更に嫌な気分にさいなまれ、なるべく見ないようにしていたが、歩みを進めて行くほどに、点在する塊が大きくなり、灰色の瓦礫が砂の上へと姿を現してくると、破壊された構造物が周囲を取り囲み、濃い影が落ちる、廃墟と化した巨大都市の中を歩いていた。


 陰惨な光景が織りなす薄闇の中を進むレナーテ。

 瓦礫の隙間から風が吹き抜け、物寂しげな音を奏でる。風は体にまとわりつきながらも、やがて消えてゆき、レナーテは風を避けるように身をかがめ、フードの中に全身を隠しながら歩みを進めていく。

 しばらく歩いていくと、周囲の風が止み、瓦礫の影が薄まってゆくと、その先に光が差し込む場所が見えてきた。


 レナーテは顔を上げ、煌々と輝く光の中心を見つめると、一歩一歩、光が差し込む場所へ進んでゆき、明るく開けた場所に辿り着いた。


「彼女の依頼は、いつも面倒だ」


 フードを後ろに下げ、顔を出すと、光の中心を見つめながら、ぽつりとつぶやき、明るく開けた場所へと入っていった。









レナーテ



おきなさい、レナーテ



…どこか、とおくから、声がする


 周囲は白い世界に覆われ、暖かく、体が浮いているようで、心地いい。


 しばらく白い空間の中を漂うと周囲が輝き始め、青い色の光に包まれ、黄金色の光を放つ巨大な発光体が、体の上に浮いている。


『 レナーテ 』


『 シリカの砂漠に行きなさい 』


『 そして、確かめるのです 』


…何も抵抗が出来ない。

ただ、受け入れるしかない。



コペリニウス…




 気が付くと、明るく開けた場所の中心で倒れている自分がいる。

 そして、いつもと同じように、あいつらコペリアが数体、俺を取り囲み、バックパックと武器が置かれている。


 レナーテは、ゆっくり体を起こすと、バックパックを引き寄せ、その中から手のひらサイズの黒い物体を数体、取りだす。

 黒い物体に軽く触れ、起動させると、瞬く間にその場から消え去り、見えなくなった。

 しばらくすると、レナーテの意識の中に何かの情報が表示されてきた。


…この感覚が嫌なんだ。誰かに操られているようで。


 レナーテは、額を右の手のひらで軽く触れながら、静かにその場に座っている。


「よし、行くぞ」

 目を見開き、一言発すると立ち上がり、フードで顔を覆う。

 そして、それに呼応するかのように、コペリア達もその身に羽織るローブのフードを被り、


彼らの姿がその場から消えて無くなった。


 周囲の情報が、リアルタイムでレナーテの意識の中に表示されている。

 武装したコペリア六体が、楕円形で取り囲み、その周囲に黒い物体アクティブ・トレーサー、十二機が空中に浮き、広範囲に広がっている。

 黒い物体アクティブ・トレーサーからは、地形情報や進行ルート、索敵情報など、周辺に対するあらゆる情報が送られ、コペリア達が情報を処理し、リアルタイムでオペレーションの運用を行っていた。


 淡々と歩みを進めるレナーテ。明るく開けた場所を抜けると、またあの陰惨な構造物が取り囲む地帯へと足を踏み入れる。

 来る前は、気にしないようにしていたが、情報がダイレクトで意識の中に表示されると、凄惨な光景が、否が応でも意識の中に飛び込んでくる。


…お前達には、無理だ。


 レナーテが斜め前にある瓦礫の影を見つめた瞬間、周囲に黄金色の閃光が走り、何かが燃え煙が周囲に広がる。

 閃光の輝きは、瓦礫の中を進んでゆくほどに多くなり、様々な色の閃光が交錯し、何かが燃えるたびに焼け焦げた嫌なにおいが漂い、意識の中に表示されるカウントが上がってゆく。


 刻々と変化する周囲の状況を気にしないように、レナーテが瓦礫の通路を通り過ぎようとすると、瓦礫の上にある物陰に隠れた改造種が、ブラスターを構えている。


…もう、諦めてくれ


―――


 後方から閃光が走り、物陰に隠れた改造種が焼け焦げ、その場で倒れると、レナーテの横に転がり落ちてきた。


「 姿を見せない、裏切者の改造種めぇ… 


 その言葉を発すると、焼け焦げた改造種は、動かなくなった。


 レナーテの意識には、後方のコペリアがブラスター・ライフルを放った情報が表示され、また新たなターゲットにマーカーをロックしている。


 マーカーには、ロックされた改造種の識別名が表示され、様々な改造種達は同じ方向を向き、廃墟の中心にある、明るく開けた場所に向かっている。


…もう


 レナーテが少し後ろを振り向き、改造種が向かう明るく開けた場所を見つめると、そこには、黄金色に輝く巨大な建造物が、大地から浮いていた。


「 浮遊都市 ドリーブ… 」


…創造主、コペリニウスが統治する都市。

そして、人造知的生命体ファウストのメティスが眠っている遺跡。


https://kakuyomu.jp/users/TA-S-KA/news/16817330647771711575

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