第1話 追放された少年
「て、てめえは何もんだ! お姉ちゃんって、わけわかんねえぞ。お前もヨゼフと同じ頭がお花畑か!」
ヘルムートがあまりの状況に地団太を踏む。
「お花畑っ! 結構ッ! けっこうこけこっこ! 私はお姉ちゃんだから、お花畑のような弟と同じにされるなら結構よ!」
「話が全然通じねえ! くそっ、頭がおかしい。精霊にやられたボケやろうかッ!」
「精霊を馬鹿にしないで! この鬼畜魔法使いが! この弟の優しい姿をみて、馬頭とかおかしいから!」
「もごもごもごっ(僕もよくわからないおかしいかもしれないって思う)」
アウロラの乳圧に押されながらもヨゼフは突っ込みを入れる。だが、聞き入れられることはない。声が押しつぶされる。この姉力は恐ろしすぎる。
「何を言っているんですか! この変な人! ヨゼフ様が苦しんでいるじゃないですか! ああ、顔が青くなっています」
逃げてきたモニカが慌てて、アウロラからヨゼフの幼い体を救い出す。
「あら失礼。ではなく、まあ、エルフちゃんの姉力の無さ。妹力か、名努力しかないのであれば理解できないわね。でもね、そこの髪の毛つんつん魔法使いはクズなのはわかるでしょ」
「それは……」
モニカは何も答えられない。雇い主の兄だから。でも、アウロラの言葉の否定はできない。
「いえ、間違いなんです。ヘルムート兄さんが僕をこんなことにするなんて」
「でも、エルフさんの姿を見なさい。服はボロボロ。ヨゼフ、あなただって、殴られて意識が朦朧としていたはずよ。だから、あんな奴なんて」
「ヘルムート兄さんは僕の血を分けた兄。半分は前のお母様の地だけど、父は同じだから。それをどうして、否定してはいけないの? 僕を殺そうとしたのも何かの間違いだから。ねえ?」
「甘ちゃんだな。とことん甘ちゃんだ! 殺せ! お前は捨てれたんだよ。親父に! 12歳で追放しろ! って、俺は言われた! お前をオトマイアーから追放しろってな!!!!」
ヘルムートの言葉は残酷だった。そこには理性しかなく、ただの自分で行っているという意思しかない。
「オトマイアーから、追放されたんだ。僕は」
「そうだ、お前は要無しだ。追放だ。いらない子だ。いいことじゃないか! もう殴られることはない。まあ、お前の体には毒を飲ませているから死ぬだろうから、そんな気持ちもなくなるだろうからなあああああ!!!!!!!!!
ヨゼフはその言葉に何も言葉が出なくなって、涙がこぼれた。
手下の召使たちがヨゼフたちに迫る。
アウロラは首を横に振り、優しくヨゼフを包み込む。
「追放された。縁が切れてよかったじゃない――だったら、私を使いなさい。私は光の精霊。アウロラ。あなたをずっと見てきて、あなたを守ろうとしてきた。正しいあなたの気持ちと魔力がたまるまでずっと、ずっと出られなかったけど、12歳になって、出てこれた。使いなさい――もし、お兄さんを救いたいなら」
アウロラの体から眩い光があふれて、ヨゼフの体を守るようにまとわれる。
「僕は兄さんを救う。正しい心を持った兄さんに」
ヨゼフは右手を上げる。光線が放たれ、ヘルムートの胸を突きさす。
「ぐえっあがっ? な、なんだこりゃ! えげっ」
ヘルムートは配下を突き抜けて突き刺さった光に驚き、口から血のように赤い煙を吐く。
いや、よく見ると黒に限りなく近い赤い毒々しい煙と禍々しい悲鳴が聞こえてくる。
「やめてください。ヘルムート様! それだけは! 死んだ妻の指輪ッ」
「駄目だ。お前の税の踏み倒しの充てだ」
「もう何もない。娘も身売りして、妻はそれでも死んだんだ! どうして」
「しらん! 飢饉だろうが、年貢はここまでだ!」
「うわあああああああああああああああああ!」
男の悲鳴。ヘルムートの非道。
ヘルムードはその後、白目をむいて、そのまま倒れた。体中から黒い血煙を吐き出し続け、そして、汗やらなにやら体中からいろいろなものを出して倒れている。
最後に髪の毛が全部抜けて、ハゲになった。
だが、悪夢を見始めているらしく、
「やめろ。何でお前らが俺を襲うんだ。やめろ、火であぶるな。光であぶるな。痛い、やめてくれ。痛い、ぎゃああああああ。これは夢だ。おき、ぎゃあああああ。いたい、いたいよう。やめてくれよう。何でこんな目に俺があうんだ。俺は火の魔法使いとして、強いぎゃあああああああああ! 熱い熱い熱いっっぅ!!!!」
生きてはいるが、すぐには意識を取り戻さないだろう。
手下たちがその姿に戦慄を覚えながらも、ヘルムートを連れて行く。
「これでもあなたは兄を許すの?」
「それは……それは……」
ヨゼフは12歳。まだ、考えるには早いのかもいしれないだから。
「今は考えるのはやめて、私と一緒に逃げましょう。そして、お勉強してから」
「やめてください! ヨゼフ様は傷ついているんです。変なことを言わないでください!」
「エルフちゃん、ああ、モニカちゃんだっけ。ヨゼフは傷ついているの。だから、こうやって、癒してあげないと」
ヨゼフを抱き寄せるアウロラ。だが、ヨゼフは立ち上がった。
「大丈夫。僕は。これから、どうしたいいの? いい子にしてた。いい子にしていたら、いい領主になれると思っていたのに。こんなんじゃ」
ヨゼフは言葉を失い、涙を流す。ぽろぽろと涙を流す。ただ、ただ、流して流して。
「わたしをよくしてくれたひとがオッフェンバッハという港町にいます、そこで体を癒しましょう」
追放された少年はモニカの言葉にうなづくしかなかった。
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