私の願い事

イサオのタテガミ

第1話プロローグ

シェアハウスの名前はガンダーラ。

いかにも宗教っぽくて怪しげではあるが、気になる場所ではある。


そこに行けば、どんな願いも1年以内に叶えてくれるのだそうだ。

私の願いは一つだけ。


このクソみたいな人生を一日でも早く終わらせてほしい。




ガンダーラにたどり着いた私は、その日に入居審査というのを受けた

それは、言葉にすると仰々しいが、いわゆる飲み会のようなものが開催され


そこで先輩住人さんたちとうまく暮らせて行けそうかどうかを判断されるらしい。


夜遅くまで開催された飲み会の翌日、私は入居することをゆるされた。


ずっと私の隣に座ってくれて、いい感じに私が皆に溶け込めるよう配慮してくれた敬さんは、とてもいい人でガンダーラのシステムについても親切に教えてくれた。


敬さんがいうには、ここには特にルールというものはないらしい。

お金に関しても、「ここには金持ちもいるみたいだし、詳しく知らないけどスポンサーもいるみたい」だそうだ。


敬さん自身ここにきて半年間まだ一円も請求されたことがないらしいから、所持金に不安があった私は少し安心した。


そして入居の際に管理人さんからあなたの願い事ってなんですか?と聞かれ、さすがに私を殺してくださいと答えるわけにもいかず、「幸せな結婚をしたいです。」


と答えておいた。


ガンダーラは廃校になった小学校をシェアハウスにしたところだと

前に敬さんが教えてくれた。


現在は男7人女4人計11人での共同生活をしている。


ちなみに私は女性でみんなにはイサコと呼ばれている。


とにかくここは田舎で、俗にいう限界集落といった感じの場所だ。


鶏の鳴き声で朝目覚めて、朝食は卵かけご飯を食べた。

朝食の時間はなんと朝5時。


健康的だとは思うけど、お坊さんじゃあるまいし。


せっかくだから、少し散歩でもしてみようかな。


歩いて数分のところにある川の水はとてもきれいで、小さな小魚もたくさん泳いでいる。

なんて魚なのか今度敬さんに聞いてみよう。


2時間余りぶらぶら散歩してガンダーラに戻るも、時計を見たら当たり前だが

まだ7時半。


もう一回ご飯食べよ。



二度寝から目が覚めてもう一度住人さんたちにおはようございますと言いながら、思った。

もしかするとこれは、しあわせというものなのかもしれない。


住人さんたちの会話の中のワードの、卒業、敬さん、がんばってほしいよね。

などが気になり聞いてみたところ。


どうやら敬さんは今朝ここを卒業したというのだ。


は?卒業って何?なんで?いきなり?連絡先とか知らないし。


敬さんには、もう会えないということみたいだ。



敬さんが居なくなってそろそろ2週間週間がたとうとしている。


まるで彼はここに存在してなかったかのように、もう誰も彼のことを話題にしなくなっている。


そういえば彼と最後に話したときに聞いた、「ようやく夢が叶いそうだ。」

彼は確かにそんなことを言っていた気がする。


彼の夢っていったい何だったのだろう。


もっとちゃんと聞いておけばよかったなぁ。


すっかり忘れてしまっていたというか、全く信じてもいなかったのだけれど、

ここは、どんな願いも1年以内に叶うという場所でもあった。


そして私が願ったのは、「誰かに私を殺してほしい」だったはずだけど、1年以内に叶うってことなの?


まあどうでもいいけど・・・。






今シェアハウスガンダーラには、私以外にも9人の住人がいるが、詳しい自己紹介のようなことは、しない決まりになっているようだ。


これからのことなど、もうどうでもよいと考えていた私にとっては、そのことが何より心地良かった。


ただ私のことを気にかけてくれて、とても優しかった敬さんだけは、今でも少し気になっている。


今頃彼は、夢だった何かをかなえて、きっとどこかで幸せに暮らしているに違いない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る