8. 植木鉢を頭にかぶった鉢郎の話

 日記順調、3日つづく。『肉片蒐集家』6分割して1を予約投稿、このまま連日投稿してその間こちらの『1年ほどまともに書いてなかったので』休止の予定。まあこの回自体が投稿されるのがその休止後になってるわけだが。

 今朝目覚めてからやる気がもりもり出てきて危ない。何が危ないかと言えばやる気あふれる、過剰に頑張る、反動で面倒になるというパターンがよくあるから。

 前置き終わって三題噺を始める。使用するサイトは『三題噺スイッチ改訂版』、ありがとうございます。選ばれたお題は満月! 拾う! 網!


 三幣が深夜酒飲んだ帰りにふらふら歩いていたところ、ふと空を見上げればぽっかりと満月が浮かんでいて、そうだあれをお土産に持って帰ろうじゃないかと思いついた。

 都合のいいことにそこは漁師村でひょいとあたりを見渡せば網のひとつやふたつあって、ちょいと拝借してからえいやと月に向かって網を投げかけた。

 けれども全然それでは月には届かなかったので仕方がないから三幣は千鳥足でどうにかこうにか屋根に上ると再びえいやと月に向かって網を投げた。あとちょっと足りない。

 うーむ、月のやつもなかなかやるじゃないかと三幣は思って、こうなったら徹底抗戦だと一旦屋根から降りて脚立をどこからか持ってきて再び屋根に上ると、屋根の上に脚立を置いてその上に三幣は乗っかると月に向かって網をなげかけた(危ないので絶対に真似しないでください)。

 するとどうだろう、ぐぐいと確かな手ごたえがあったではないか。網の中にはすっぽりと月が収まっていて腕に力をこめれば月がこちらにずずいと動いてくる。喜びのあまり三幣は脚立の上で踊りだしたがそれがまずかった。

 足を踏み外してすってん、屋根の上から地面まで真っ逆さま。三幣はぐるぐる目を回してしまって目覚めた時にはすっかり日が昇っていた。掴んだままの網の中には何も入ってなかったとさ、おしまい。


 題名は『月と三幣』。グリム童話に月を持って帰る話があったな、それから坂口安吾が星をとるとかどうこういう短文を書いてたな、と思い出すがどちらもたいして関係はない。

 つづけて「もういっかい」、お題は草地、男の子、植木鉢。


 あるところに男の子がいて街で暮らしていた。あるとき男の子が通りを歩いていたところ空から植木鉢が降ってきて男の子の頭に直撃した。それで頭がかち割れて死んでしまったかというとそんなことはなくて運がいいのか悪いのか逆さの植木鉢は男の子の頭にすっかりはまってしまった。

 そう言えば徒然草だか宇治拾遺物語だかに宴会で鉢か何かをふざけてかぶって取れなくなってしまった坊さんの話があったがあれは最後はなんとなく死んだとかそんなんだったか、そもそも何に書いてあったのかわからないぐらいなんだからちゃんと覚えていない。この二つのどっちに書いてたかよくわかんなくなることがあって、有名な話なら大丈夫なんだけどそうじゃないと出典がどっちなんだか困る。

 閑話を終えて男の子の方に話は戻る。男の子がどうなったかと言うと周りの人の手を借りても植木鉢はどうしてもとれなくて、じゃあどうしようかと街の偉い人たちが集まって話し合ったところ、こんな不気味な奴は街に置いておけないと追放することに決めた。男の子は植木鉢のせいでうまくしゃべれなかったのでそのまま街から追い出されることになった。

 街の外は広い広い草地になっていて男の子はあてどなく歩き回ることになった。時には流れる小川から水を飲み、時にはあふれる草木から木の実を食べ、そうして生死の境をさまよいながら男の子は成長し男となり、自らの名前を鉢郎であると定めた。

 鉢郎がさ迷い歩いた末にたどり着いたのは大きな大きな街だった。彼が以前暮らしていた街よりも何倍も大きな街でたくさんの人が住んでいたから鉢郎のことを気にする人もいないぐらいだった。

 行き交う人々の語るところによれば街の中心には高い高い城があってそこには美しい美しいお姫様がいたというのだけれど、少し前にそのお姫様は悪い悪い悪い竜につれさられたということだった。その悪い竜は西の火の山に住んでいてそこからお姫様を救い出すことができたならたくさんの褒美がもらえることだろうという話だった。

 鉢郎はよしそれなら自分の運命を試してやろうじゃないかとまっすぐ火の山に向かって歩き出した。火の山へ至る道はごつごつとして険しいものだったけれど平素から視覚ぬきで足元の感覚のみで渡り歩いてきた鉢郎にとってはそんなに苦になるものでなかった。

 それでもさすがに少しくたびれて山の中ほどにあった大きな岩で一休みしていたところどこからか鳥が一羽飛んできて鉢郎の頭の植木鉢に止まった。

「お前さん面白い格好をしているね」

「全身真っ黒なお前さんほどじゃないさ」

「ほうほうそんなものをかぶっていて目が見えるのかい」

「見えないよ、それでもかーかー言ううるさい声でお前がなんだかぐらいわかる」

「まったくおもしろい、おもしろいやつだよ。お礼にこれをくれてやろう」

 カラスはぽとりと鉢郎の手のひらに何かを落とすとそのまま飛び去って行ってしまった。指先で触れて確かめたところそれはどうやら何かの種らしかった。

 それからまた歩いて歩いてついに鉢郎は悪い竜の住んでいるという火の山のてっぺんにある火の池にまでやってきたのだった。


 今日のお話はこれでおしまい、つづきはまた明日。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る