メリアの養女

 私たちは国境を越え、数日かけてサイネリア王国に戻ってきた。

 まずは王宮に戻り、国王陛下とお父様にご報告をしなければならない。


 王宮へ到着すると、上層部以外の者は解散となった。部下たちには数日の休暇を与え、英気を養ってもらうことにした。


 まずは執務室で一息をつく。さて、ルキア王国で引き取った少女をどういたしましょう。

 とりあえず、お茶とお菓子を用意してくつろぐ。眠っていた少女はお茶とお菓子の香りにつられて起きてしまった。


「あら、おはよう」

「おはよう」


 少女は私の膝の上でむくりと私の顔を見上げる。


 とても可愛らしいですわ。


 私は思わず、ぎゅぅっと抱きしめてしまった。

 私がぎゅぅをやめると、少女は私の方を向いて「もっとして」と呟くので再びぎゅぅしてしまった。


 少女の破壊力は抜群ですわ。


「あなた、お名前は?」


 少女は首を振る。名前が無いのか覚えていないのか、そんなに幼い頃から拘束されていたのね。


 私は少女の名前を首を捻りながら考える。


 そうねぇ、メリアとセシルの名前を足して……。


「メリル、でどうかしら?」


「うん、メリル。わたしのなまえはメリル」


 とても嬉しそうにメリルは自分の名前を連呼する。


 私、お父様に負けないくらい親バカになりそうですわ。

 可愛くて可愛くてたまりませんわ。


 気がつくと、メリルは目の前のお菓子を食べたさそうにしていた。


「お菓子を食べる?」

「うん」


 メリルは不器用にお菓子を美味しそうに食べる。


 今は仕方がありませんわね。


「メリル、おいしい?」

「うん、おいしい」


 私とノエルはいつもはストレートティを飲んでいる。

 メリルにとっては苦いと思うので、甘いものを用意した。


 メリルに甘いお茶を飲ませようとした時、トントンとノックの音が聞こえた。


「どうぞ」

「お邪魔いたしますわ。メリア、その子は……」


 執務室に訪れたのはセシルだった。

 私たちの労をねぎらうために来たみたいだ。


 しかし、私が少女を抱えているのを見てセシルは固まってしまった。


「セシル様、まずは落ち着いてください」


 ノエルはセシルを落ち着かせようと、席に座らせお茶を勧める。


 セシルはお茶を一口飲んで少し冷静さを取り戻したようだ。


「メリア、説明をお願いいたしますわ」


 私はルキア王国、元ザンネーム王国でメリルが牢獄で拘束されていたことなどを説明した。


「そういうことだったですのね。安心いたしましたわ」


「セシル、この子を私の養女にしようと思うの。どう思います?」


「メリアの子ということは、将来私の子になるということですわよね」


 そういうことになりますわね。


「メリル、まずは王女様にごあいさつをいたしましょう」


 私はメリルを立たせ、こうやってやるのよと見本を見せた。

 メリルは不器用にも私の動作を真似てセシルにあいさつをする。


「セシルおうじょさま、わたくしはメリルでございます」


 私がメリルを褒めようとする前に、セシルがメリルを「きゃぁ」と言いながら抱きしめた。


 二人揃って親バカになりそうですわね。


「名前がメリルって、メリアとセシル……。とても素敵ですわ」


 私の単純思考がすぐにセシルに伝わったようだ。

 セシルも気に入ってくれたようで何よりだ。


 その後、今のままの状態で国王陛下にお会いするのは不敬になりそうということで4人でお風呂に入り、着替えをすることになった。

 

 王宮の浴場に着くと、メリルは目をまんまるにして驚いてた。


 まずは何年もお風呂に入っていなかったメリルを私とセシルで念入りに洗ってあげた。

 メリルの体を洗い終わると、一旦ノエルにメリルを預けて湯船に入ってもらった。

 私たちも体を洗い流して湯船に入り、私たちは湯船で体を寄せ合う。


「はぁ、生き返りますわね」


 あまりの気持ちよさに声が出てしまった。

 セシルとノエルに「うふふ」と笑われてしまった。


 仕事帰りに一風呂浴びるおじさんの台詞でしたわ……。


 気がついたら、メリルがこくりこくりと寝落ちしそうになっていた。


「あらあら」


 私はメリルが溺れないように抱きしめてあげる。


「メリルはメリアにそっくりになりそうですわね」


 私は「そうですわね」と呟きながらメリルの頭を撫でる。


 とても幸せな時間ですわ。


 お風呂から上がると、使用人たちに用意された洋服に着替える。

 制服は替えがないのでドレスに着替えることになった。

 メリルはセシルのお古を着せる。

 とても可愛らしいお嬢様に大変身だ。


「メリル、とても可愛いわ」


 私は思わずメリルをぎゅぅとする。

 洗いたてでメリルからとてもいい香りがする。


「メリアずるいですわ」


 セシルも負けじと、メリアをぎゅぅとする。

 メリルは私たちのぎゅぅ責めに嫌がるかなと思ったが、思いのほか喜んでいた。

 ノエルは「あはは」と少し引き気味に笑顔を見せていた。


 準備が整ったので、私たちは国王陛下の書斎に行くことになった。

 もちろん、お父様もいらっしゃるようだ。


 私とセシルはメリルと手を繋ぎながら歩いていく。


「メリア様、セシル様、親子みたいで微笑ましいですね」


 ノエル、親子みたいじゃなくてこれから親子になるのですわ。


 国王陛下の書斎に向かう途中、フィーリア騎士団長とも合流した。

 フィーリア騎士団長は一瞬驚かれたが、事情を知っているのですぐに納得された。


 国王陛下の書斎の前に着くと、ノエルがノックをする。


「許可する」

「失礼いたします」


 ノエルが扉を開け、私とセシルが先に国王陛下の書斎に入っていく。

 もちろんメリルと手を繋いだままだ。

 予想通り、お父様は驚愕した顔を見せた。


 私たちは跪いて国王陛下にあいさつをする。

 メリルも私の真似をして跪く。

 セシルは一旦、その場を離れた。


「国王陛下、只今帰還いたしました……」


 私たちは国王陛下に元ザンネーム王国での戦果と状況を報告した。


「うむ、見事な働きであった。まさかザンネーム国王が自分の王国を捨てて亡命するとはな。あやつは、あそこまで落ちぶれたのか……」


 戦後処理の予算などについては、また後日会議を開き調整することとなった。


「メリア執務官、そちらの少女は誰の子なのだ?」


 お父様が恐る恐る私に質問をしてきた。


「ええ、私の養女でございますわ」


 お父様は両膝をついて絶望したような表情になった。

 周りのみんなは笑いを堪えるのに必死のようだった。


 そういえば、メリルについてのご報告がまだでしたわね。


 国王陛下とお父様に事情を説明して、メリルを正式に私の養女となるように手配をしてもらえることになった。


 当分はアルストール家で面倒を見ることになった。


 お世話役はユリネスが適任かしら。

 ユリネスは魔力もそこそこ高いので、メリルの魔力コントロールの鍛錬を任せましょう。

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