ザンネーム王国の残念な王子捕獲

 私たちが執務室で業務をしていると、窓から大きな鳥が入ってきてノエルの腕の上に止まる。


 ノエルと大きな鳥が会話をしている。


 エルミーナ秘書官はいきなりの出来事で驚いていた。


 そういえば、ノエルの能力のことを説明していませんでしたわね。


「ありがとう」


 ノエルはお礼に大きな鳥にエサをあげた。


 大きな鳥はエサをもらうと軽く首を縦に振って飛び立っていった。


「メリア様、山間部にザンネーム王国からの密入国者が現れたと教えてくれました。誰も住んでいない山小屋に潜んでいるそうです」


 本当に、仕事を増やしてくれる王国でございますわね。


 さっさと片付けてしまいましょう。


「ノエル、山小屋の位置などは把握しているかしら?」


「はい。ちゃんと教えてもらいました」


 エルミーナ秘書官に事情を説明して、ダリアとアリスを招集して密入国者を捕まえに行くことにした。


 4人乗りの馬車に乗車して出発しようとしたら、セシルが馬車に飛び乗ってきた。


「今度こそは、私を置いていかないでくださいませ」


 セシルがダンジョンへ一緒に行けなかったことが残念で仕方なかったみたいだ。


 セシルは王女様ですからねぇ……。


 馬車は4人乗りで、セシルの座る席がない。


 セシルは少し考えた末、私の膝の上に座る。


 わ、私の膝の上に美少女が……。


「もう、セシル。危ないですわよ」


 私は注意を言って、セシルが振り落とされないようにセシルの腰回りをがっちりつかむ。


 や、やわらかいですわ。


 しかもいい香りが……。


 結局、定員オーバーのまま馬車は動き出した。


「メリア、ありがとう」


 こちらこそ、ごち……いえ、ありがとうございます!


 当然、フィーリア騎士団長たちが後を追ってくる。


 王女様の警護も大変ですわね。


 馬車を飛ばして1時間半くらいで目的地の近くまで到着した。


 私たちは戦闘用に装備を整えて、歩いて山小屋に向かっていく。


 山小屋に近づくと、見張り役が山小屋の周りをウロウロしていた。


 あまり強そうではなかったので堂々と正面から行くことにした。


「あら、ごきげんよう」


「なんだ、お前は? 何しにきた?」


 見張り役は剣を私に向けて怒鳴ってきた。


 脅しているつもりかしら……。


「あら、相手に名乗らせる前にご自分が先に名乗るのが礼儀ではないかしら。私、メリア・アルストールでございますわ」


「な、名前を聞いているんじゃない!?」


 見張り役が騒いでいると、一人の男が山小屋から出てきた。


「何を騒いでいる。深夜に王女誘拐の作戦があるんだぞ。起こすなよ……!? 誰だお前は?」


 ザンネーム王国には残念な工作員しかいないのかしら?

 

 自ら作戦をバラすなんて、残念すぎますわ。


 残念な男が仲間を呼び始めたので、セシルたちも私のところに駆けつけた。


「メリア、あの男。ザンネーム王国の第2王子のホートニー・モン・ザンネームですわ!」


 本当に残念な王子様ですわね。


 ホートニー王子はセシルを見て驚きと喜びの顔を見せた。


「なんだ、セシル王女が自ら飛び込んできてくれるなんて。手間が省けたじゃないか。セシル王女、我が婚約者として共に来ていただきましょうか」


 ホートニー王子がセシルに近づこうとしたので、私は間に入って立ちはだかる。


「貴方に、私のセシルは渡さないわ!」


 ホートニー王子は鋭い目つきで睨みつける。


「なんだお前は! 邪魔をするな!」


「私は、メリア・アルストール。セシルの幸せは私が守るって決めているのですわ!」


 なぜか、後ろの方で「きゃぁ」と黄色い声が聞こえたのは気のせいだろうか。


 ホートニー王子は苛立ちながら白い手袋を私に投げてきた。


 決闘をご所望なのでしょうか。


 私は遠慮なく手袋を拾う。


 それを見たホートニー王子はニヤけた顔をした。


「拾ったな。俺様と決闘して勝った方がセシルの婚約者だ。今更逃げないよな?」


「貴方は密入国者で犯罪者ですわ。決闘を受ける義理はございませんが、望むところですわ」


「ぐぬぬ、俺様が犯罪者だと!?」


 自分が犯罪者だという認識がないようですね……はぁ。


 しかし、普通に剣で戦ってしまうと相手の原形をとどめておける自信はありませんわ……。


 おや、ここにちょうどいい大きさの小枝がありますわ。


 私はそばの小枝を拾う。


 私の行為にホートニー王子は更に苛立ちを増した。


「舐められたものだな、俺様とそんな小枝で決闘をするのか?」


「貴方にはこれで十分ですわ」


 私は小枝を右手に持ち構える。


 もちろん小枝は魔力強化されている。


 ホートニー王子は大きな動作で剣を振るってくるも、私は軽くいなす。


 私は素早く小枝で胴や肩などを突いていく。


 ホートニー王子はずるずると後退りしていく。


「くそぉぉ!」


 ホートニー王子は最後の力を振り絞って攻撃に転じる。


 私は軽く交わしホートニー王子の後ろにまわり、後頭部に一撃を与えた。


 ホートニー王子は気を失いうつ伏せに倒れてしまった。


「私の勝ちですわね」


 涙ぐみながら嬉しそうな顔をしてセシルが私に抱きついてきた。


「メリア、ありがとう。『私のセシル』だなんて、本当に嬉しいですわ」

 

 あれ、セシルが恋する乙女の顔になってない?

 

 ホートニー王子と私の決闘が決着がつく頃にフィーリア騎士団長たちが到着して残りの工作員を無力化して拘束をした。


 もちろん、気絶しているホートニー王子もギチギチに縛り上げた。


「王女様、メリア様、ご無事ですか……」


 フィーリア騎士団長は何が起きているのか理解できないという顔をした。


 私も理解できない。


 親切にもノエルが分かり易く説明してくれた。


「メリア様とホートニー王子がセシル様との婚約を賭けて決闘されたのです。それでメリア様が勝利されたということです」


 フィーリア騎士団長は「なるほど」と呟いて理解できたようだ。


 私はいまいち理解できないのだけど。


「王女様、メリア様、ご婚約については国王陛下にご報告されてから調整いたしましょう」


 フィーリア騎士団長にも納得されてしまった。


 私はノエルを呼んでもう少し詳しく聞くことにした。


「ノエル、女性同士の結婚は可能なのでしょうか?」


「はい、サイネリア王国では同性の結婚は認められております。意外と少なくはないようです」


 決闘での決め事は絶対のようで、私とセシルの婚約は決定的になったようだ。


「メリア、私との婚約は嫌ですの?」


「嫌ではございませんわ。セシルのことが大好きですわ」


 まさか、こんな結果になるとは思ってもいませんでしたわ。

 

 結局、私たちの馬車には、私とセシルとノエルの3人で乗って帰ることになった。


 ダリアとアリスは騎士団に合流した。


 ホートニー王子たちは荷台に荷物扱いされ護送された。



 そして、私はセシルに甘えられながら王宮へ戻るのであった……。

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