「王国反逆罪」首謀者の最期

 私たちは騎士団を引き連れにグワジール宰相の部屋へ向かっている。

 

 事情を知らない王宮の者たちは「何事か!」と驚き、騒然としている。


 グワジール宰相の部屋に着くと、両扉の警護をしている兵士に止められた。


「フィーリア騎士団長、何用でございましょうか?」


 フィーリア騎士団長は一枚の書状を兵士に見せる。


 現代世界でいえば、捜査令状のようなものだ。


 警護をしていた兵士は「はっ」と返事をして道をあける。


 フィーリア騎士団長は豪快に両扉を開くと大声で騎士たちに命令する。


「この部屋の者を全て捕らえよ!」


『はっ、かしこまりました』


 騎士団はかなり統率されていて、素早くグワジール宰相たちを拘束した。


「フィーリア騎士団長、何だ、何をする!」


 グワジール宰相は鋭い目つきでフィーリア騎士団長を睨む。


 フィーリア騎士団長は怯むことなく、書状をグワジール宰相に開いて見せる。


「国王陛下から承認をいただいた書状だ。これが何かわからぬはずがなかろう」


 グワジール宰相は「ぐぬぬ」と悔しい顔をした。


「グワジール、お前はサイネリア王国を崩壊に導いた首謀者、『王国反逆罪』の犯罪者だ。観念しなさい」


 それでもグワジール宰相は諦めないようだ。


「何を証拠に私を犯罪者呼ばわりするのかね? そこの小娘の戯言ではないのか!」


 私の戯言で国王陛下が承認するわけないでしょう。


「メリア様を侮辱しないでいただきたい。あの者をここへ連れてまいれ」


「はっ!」


 騎士の一人が暗殺者を強引に連れてきた。


「ブルセージ執務官、メリア様の暗殺を命令したのはグワジールだと、この者が全てを自白した」


「こんなやつは知らん。見たこともない。そんなものが証拠にはならん!」


 この期におよんで……。


 本当にテンプレ的悪人ですわね。


「ダリア、あれを読んでやれ」


「はっ!」


 ダリアが前に出て一枚の紙を広げる。


『グワジール閣下、王国乗っ取りの計画は順調でしょうか? こちらは貴殿のお陰で儲けさせております。あとは、我が国の第2王子とそちらの王女様とのご成婚が叶えば計画完了でございます……』


 ダリアは、グワジール宰相宛の手紙を最後まで読み上げた。


 グワジール宰相が自ら嫌がらせでたくさんの書類を持ってきた時に手紙が混入していたのだ。


 グワジール宰相が自ら証拠を提供してくれるなんて、とても親切な方ですわ。

 

 それでもグワジール宰相は納得しないようだ。


 往生際が悪いですわね。


 私は、ノエルに頼んで仕掛けてある魔道具を取ってきてもらった。


 これは人の言葉を録音する魔道具だ。


 私は魔道具に魔力を注いで録音されている音声を再生させる。


『くそぅ、あの小娘め。忌々いまいましい。ブルセージを片付けて計画が順調にいくと思ったのに邪魔をしおって。おい、お前。メリア執務官代理を暗殺してこい! 小娘なら簡単に始末できるだろう? はっ、かしこまりました……』


 グワジール宰相はどうして自分の声が他から聞こえてくるのかが理解ができないという顔をしていた。


 私とノエル以外の人たちも驚いていた。


「これでもう、言い逃れはできないだろう。あとは、使途不明金の行方だ。どこに隠している?」


「そんなものは知らん」


 グワジール宰相は「ぐぬぬ」と悔しがりながら抵抗を続ける。


 私はノエルから伝言をもらった。


 グワジール宰相の部屋を監視している動物から隠し扉がある場所を教えてもらったようだ。


「こちらの書棚、少々違和感がございますわ」


「なっ!」


 グワジール宰相は分かり易いですわね。


 私はわざとらしく言いながら、書棚を横から押す。


 軽く押すだけで書棚が動いた。


 すると、隠し扉が姿を現した。


 フィーリア騎士団長の合図で騎士たちが隠し扉を開ける。


 中にはよくもまぁこれほど集めたものだと思うばかりの量の金品があった。


 グワジール宰相は完全に項垂れてしまった。



 グワジール宰相を拘束し、国王陛下のところへ連れて行くことになった。


 他の関係者は牢獄へ連れて行かれた。


 私たちも国王の間へ向かう。

 

 国王の間に着き、付き添っている騎士がグワジール宰相を国王陛下の前で無理やりひざまずかせた。


 グワジール宰相はうつむいたままだった。


「グワジール。罪状は全て報告を受けておる。『王国反逆罪』で其方を極刑に処する」


 グワジール宰相は更に力が抜けたような感じだ。


 絶望のどん底にいるのでしょう。


「計画に加担した者も同罪とする。ボルジワール家は解体、資産没収とする」


 グワジール宰相の家族は調査の末、刑が確定する。


 その他の関係者もそれぞれ相応の刑が科せられる。


 グワジール宰相の刑の執行は公開で行われることとなった。


 王国再建が最優先とされ、実行されるのはかなり後になりそうだ。


「もう良い、この者を牢獄へ連れて行け!」


『はっ!』


 二人の騎士が返事をすると、力が抜けてぐったりしたグワジール宰相を騎士たちが重そうに抱えて国王の間から出て行った。


 一騒動がおさまると、私たちは国王陛下の前で改めて跪く。


「おもてを上げて良いぞ」


 私たちはおもてを上げる。


 王座の横にはセシルも控えている。


 セシルが「お疲れさま」とウィンクしてきたので、私は「ありがとう」と返した。


「ごほん! メリア執務官代理、よくぞあれだけの証拠を揃えたものだ。見事であった」


「国王陛下。お褒めのお言葉ありがとう存じます。今回は騎士団の方々、私の友人たちの協力あってのことでございました。私だけの功績ではございません」


 国王陛下が何か褒美をとおっしゃった。


 私たちは全員一致で「王国のためにお使いください」とお断りをした。


 国王陛下は笑顔で了承してくれた。


 更に、グワージール宰相から押収した資産は全て王国再建に向けての軍資金に使われることとなった。

 


 私は一仕事を終えて帰宅する。


『お帰りなさいませ、メリアお嬢様』


 使用人たちに出迎えられる。


 セリアが私の荷物を預かり私の部屋へ運んでくれる。


 私は毎日帰宅後はお父様の部屋に直行している。


 今日の出来事を報告したい一心で、私はお父様に近づき、お父様の手を握り話しかける。


「お父様、王国再建の兆しが見えてきましたわ。王国の民を幸せにしてみせますからご安心してくださいませ。……お父様……」


 私は涙を流して崩れ落ちそうなところを堪えている。


 王国再建はまだ始まったばかりですわ!

 

 気を張っている私の姿を見たお母様が、ぎゅぅっと抱きしめてくれた。

 

 お父様のゴツゴツしたぎゅぅが懐かしいな……。


 

 激動の3日間が終わり、明日からは部下たちが出勤してくる。


 まだ課題は山積みで、課題が1つ解決したにすぎない。


 お父様が目覚める頃には、また幸せなスローライフを送られるように頑張りますわ!

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