グワジール宰相の陰謀の証拠集め

 私が執務室に戻ると、ノエルは一生懸命に課題の整理をしていてくれた。


「ノエル、今戻ったわ」


「メリア様、おかえりなさいませ。課題の整理は一通り終わりました」


 ノエルも癒し要素を残しつつ、優秀に育ったものだ。


「ありがとう、ノエル。助かるわ」


 ノエルから課題をまとめた紙をもらい、一通り目を通す。


 貧民層に被害が出始めているわね。

 病死者や餓死をする者が増えてきている。


 医師の派遣や配給を考えないといけないわね。


 そのためにも贅肉たっぷりの者から軍資金を調達しないといけないわ。


 王宮の食糧庫の備蓄も限界がある。


 農業の自給率向上に関しては、ミリーナと相談してみようかしら。


「ノエル、今度は植物研究所へ行ってきますわ。例の調査を頼みましたわよ」


「はい、かしこまりました」


 ノエルは自信に満ちた表情をしている。素晴らしいですわ。


 私は執務室を出てミリーナのいる植物研究所へ向かう。

 

 すると、またダリアとすれ違った。


「メリア様、お次はどちらに行かれるのでしょうか?」


 ダリアはまた迷子になることを察してくれて、向こうから声をかけてくれた。


「ありがとう、ダリア。今度は植物研究所へ行きたいですわ」


「わかりました。ご案内いたしますね」


 ダリアに案内されてあっという間に植物研究所に辿り着いた。


「では、私はこれで」


「何度もありがとう」


 ダリアは私に会釈をして戻っていった。

 

 ノックをして植物研究所に入っていくと、ミリーナの姿を見つけた。


 ミリーナもすぐに気づいたようで近寄ってきた。


「メリア様、ごきげんよう」


「ごきげんよう、ミリーナ。お久しぶりね」


「本日は、どのようなご用件でお越しになられたのですか?」


 私はミリーナに事情を説明した。


 農作物の種類の追加や、なるべく早く育つための肥料などの改良をお願いした。


 空いた土地に新しく農場を作ったりとこれから計画を立てていかなければいけない。


「では、ミリーナ。よろしくお願いいたしますわ」


「はい、メリア様。かしこまりました」


 ミリーナはハーフエルフとして貴重な存在だ。


 ここまで植物に詳しくなってくれたことは本当にありがたいし、頼りになる。

 

 私の夢に向けての研究も頑張っていてくれていた。とても嬉しいですわ。


 今日は今後に向けての根回しが主な仕事だった。


 明日も課題は山盛りよ。


 頑張らないと、ですわね。

 


 翌朝、執務室に出勤したのは私とノエルだけだ。


 他の部下たちはお休み中である。


「メリア様、昨日の宰相閣下に接触した者のリストです」


 ノエルの仕事の速さにびっくりした。


 ここまでグワジール宰相周りの1日の動きを把握できていたのか。


「ありがとう、ノエル。素晴らしいですわ」


 ノエルと今日の打ち合わせをしていると、コンコンとノックの音がした。


「失礼します」


「どうぞ、お入りください」


 執務室に来たのはカーナだった。


 手には魔道具らしきものがあった。


 アレが出来たのね。


「メリア様。ご注文の品、完成いたしましたわ。こちらの魔石に魔力を込めていただければ作動します」


「ありがとう、カーナ。これであの者を『ギャフン』と言わせてみせますわ」


 私とカーナは意味ありげな少々不気味な顔で笑い合う。


 ノエルは少し引いていてた。

 

 カーナが作ってくれた魔道具はとても小さいものだ。


 魔石はとても貴重なもので小さくても大量の魔力を込めることができるらしい。


 私は魔石に魔力を込め、魔道具が動作をしたのを確認する。


「ノエル、これをリスか何かにお願いして宰相閣下の部屋にわからないように置いてこれないかしら?」


「ええ、大丈夫ですわ」


 小さなリスがノエルの肩に乗理、私はリスに小さな魔道具を引っ掛ける。


「さぁ、お願いね」


 ノエルがリスに話しかけると、「わかった」というばかりにお辞儀をして部屋を出ていった。


 数十分経つとリスが戻ってきた。


 無事にグワジール宰相の部屋に魔道具を置いてくることができたようだ。


「リスさんありがとう」


 ノエルはリスにお礼を言って、木の実を与えた。


 リスは喜んで木の実を食べている。


 本当にメルヘンチックですわ。


 あとは協力者を炙り出すために、リストを騎士団のところへ持っていくことにする。


 私は、フィーリア騎士団長のところに向かった。


 騎士団の人たちはちょうど稽古場で訓練をしている最中だった。


 フィーリア騎士団長は私の姿を見るとすぐに近づいてきてくれた。


「メリア様、何か御用でしょうか?」


「はい、お願いがございまして。ですが、あまり人のいる場所ではお伝えできない要件でございます」


 私の深刻そうな顔を見て、フィーリア騎士団長は悟ったようだ。


「ダリア、ちょっといいか?」


 フィーリア騎士団長はダリアを呼んだ。


 会議室に移動して3人で打ち合わせをすることになった。


 会議室に着くと、私は二人に不審者リストを見せた。


「このリストは一体?」


「口外禁止でお願いいたします。宰相閣下と関わりが深い人物のリストです。この者たちに不審なことがないか観察していただきたいのです」


 フィーリア騎士団長とダリアはものすごく深刻な表情になった。


「このような情報をどうやって集められたのですか?」


 ダリアは不思議そうな顔をして質問してきた。


「私には、とても優秀な諜報員がいるのですわ」


 ダリアは「なるほど」と気がついたようだ。


 ノエルの能力については私とお友達だけの秘密になっている。


 誰が優秀な諜報員かピンときたようだ。「内密にね」と目配せをしておいた。



 騎士団達の監視が始まると、グワジール宰相にどうやら勘付かれたようだ。

 

 グワジール宰相側にも情報網がそこそこ機能しているようだ。


 すぐにグワジール宰相が執務室に訪れてきた。


「メリア執務館代理、何やらコソコソと嗅ぎ回っているようだが何をしている?」


「ただの王宮内の実態調査ですわ。何か知られてお困りになりことがございますでしょうか?」


「ふん、小娘が。いい気でいられるのも今のうちだぞ!」


 グワジール宰相は私を脅しているのかしら。

 黙っていれば容疑が深まらないものを……。


「宰相閣下、せっかくですのでお茶はいかがでしょうか?」


「ふん、私は紅茶が苦手でね。必要ない」


「ティーポットに入っているのはハーブティーでございますわ。疲労回復やリラックス効果がございますのよ」


 結局、「ふん」と呟きながらグワジール宰相はイライラしながら粗々と扉をしめて出ていった。


 実は、私たちが執務室を離れてい間に紅茶が入っているティーポットに毒を仕掛けている者がいたらしい。

 

 中身に毒を検知する液体を垂らすと反応した。

 

 毒物の入ったティーポットを保管して、別のティーポットにハーブティを入れて飲んでいたのだ。


 執務室は常に小動物によって監視されている。


 証拠はどんどん集まってきていますわよ……。

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