暴走魔法少女メリアですわ

 ノエルと男子学生との模擬戦で一番やる気に火がついたのはセシルだった。


「ノエル、わたくしとお手合わせ願えますか?」


 セシルは、他の学生の申し込みを断ってノエルのもとに近づいてきた。


「え、えぇ、セシル様とですか?」

「そんなに謙遜しなくてもいいですわ。ノエルはとてもお強いですわ」


 セシルは意外と負けず嫌いなのですのね。好感度アップですわ。


「はい、喜んでお受けいたします」

「ありがとう、ノエル」


 セシルとノエルは握手をする。二人ともいい表情ですわ。


「うむ、メリア様の弟子とフィーリア騎士団長の弟子の対決ですな。実に楽しみな模擬戦ですな」


 パワード先生の目がギラギラしていて怖いですわ。

 あれ? ノエルがわたしの弟子になってる?


 セシルとノエルがお互いに向き合って、剣を構える。

 セシルは片手でレイピアを想定した構えだ。

 ノエルはわたしと同じ前世の剣道で習った構えをしている。


「それでは、セシル様、ノエル様、模擬戦開始!」


 パワード先生の合図とともに二人は接近する。

 セシルはスピード重視の戦い方だ。セシルの方が一歩速い。

 だが、ノエルは間合いをうまく取ってセシルの剣をいなす。

 セシルは以前よりもスピードも攻撃力も鋭くなっていた。


「たぁぁ!」


 ノエルも防戦一方ではいられず、反撃にでる。

 ノエルの突きをセシルは剣で受け止める。

 

 セシルとノエルとの攻防は手に汗握りますわ。


「はぁはぁ、セシル様のスピードは素晴らしいですわ。油断したら攻撃をたくさん受けてしまいそうです」


「いいえ、ノエルの間合いの取り方、一撃の重みも素晴らしいですわ」



 決着がつかず、戦闘は十数分続いた。


「両者そこまで! もう十分でしょう。今回は引き分けでございます」


 パワード先生が模擬戦の終了の合図を出した。

 他の学生の時間もありますもの仕方ないですわね。


「セシル、ノエル。おつかれさま」


 わたしは二人にタオルを渡した。美少女の汗ばんでいる姿……。


「メリアありがとう。ノエルをここまで強くするなんて素敵ですわ」


「メリア様、ありがとうございます」


 ……わたしに育成スキルなんてあったかしら?


 その後、他の学生達の模擬戦が始まった。わたしたちがいかに突出した存在か理解ができた。


 一人だけ気になる子がいたけれど、他の学生達はほとんど大した実力はなかった……。


「さて、メリアお嬢様。最後に私とお手合わせをお願いいたします」


 忘れてましたわ……。


「はい、パワード先生。よろしくお願いいたします」


 わたしとパワード先生が向き合う。模擬戦開始の合図はセシルがするようだ。


「では、メリア、パワード先生。模擬戦はじめ!」


 わたしが先手でパワード先生へ突進して剣を振り下ろす。

 パワード先生は片手で持っていた剣を両手に持ち替えてわたしの剣を受け止める。


「うぅ、重い!」


 パワード先生の体はかなり鍛え上げていて筋肉モリモリだ。

 しかも身体強化も施している。

 パワード先生は受け止めたわたしの剣を力ずくで振り払う。

 

 わたしはバックステップをして間合いをとる。

 今度はパワード先生が突進してきた。

 わたしはすうっと剣をいなしながらかわしパワード先生の後ろをとり、剣をパワード先生の肩の上に乗せた。


「ま、まいりました。メリアお嬢様。私の負けでございます」


 周りの学生は何が起こったのか全く理解ができず、驚愕した顔をしていた。


 セシルとノエルだけは尊敬の眼差しでわたしを見ていた。


 ……ダブルでくるとは凄まじいですわ。


 先ほど気になった子も他の学生とは違う眼差しでわたしを見ていた。機会があったら声をかけてみようかしら。


「さすが、メリアお嬢様。屋敷での最後の稽古から更に腕を上げていらっしゃる。大変驚きました」


 いつもながら、パワード先生のわたしを見る目が怖いですわ。


 一通り模擬戦が終わると今日の剣の稽古は終わりになった。


 次は魔法の稽古になる。


 魔法の先生は、ミリア先生だった。

 いつでもどこでも魔法の先生をやっておりますわね。


「ミリア先生、お久しぶりでございます。こちらでも先生をされているんですね」


「メリア様、お久しぶりでございます。そうなんでございますわ。妹が食べ盛りで私がたくさん働かなくてはならないのですよ」


 セシルは「はぁ」とため息を吐いた。フィーリア騎士団長の事情はセシルも知っているようだ。


 いろいろと大変なのですわね。


「皆様、はじめまして。Sクラスの魔法の授業を担当させていただきます。ミリア・エルフォードです。よろしくお願いいたします。本日は、皆様に『ファイヤーボール』を私に見せていただきます」


 ミリア先生は、基本的な魔法の『ファイヤーボール』で学生達の魔力と技量を測るようだ。


 学生達が次々とデク人形に向かって『ファイヤーボール』を打っていく。小さい炎ばかりで威力もいまいちな者ばかりだった。


 7歳の魔法のレベルってこの程度でよかったのかしら?


 まだ魔法を見せていないのは、わたしたちの三人だけになった。

 ノエルが指定の位置へ移動する。


『大地に眠る火の精霊よ我に火の力を与えたまえ、ファイヤーボール!』


 ノエルの右腕から魔法陣が浮かびあがり炎の塊が生成されて、デク人形に向かって放たれた。

 

 なかなかの威力だ。周りの学生たちは驚いて口が塞がらないみたいだ。


「ノエル様は、魔法の才能がございますのね」


「ありがとうございます。しかし、今の実力はメリア様のお陰でございます」


「あらあら」


 ミリア先生が意味ありげに目線を送ってきたが、気づかなかったことにしよう。


 続いて、セシルが魔法を披露する。


『大地に眠る火の精霊よ我に火の力を与えたまえ、ファイヤーボール!』


 セシルもミリア先生の指導もあってなかなかの威力だった。

 ノエルより威力がありましたわ。


「セシル様も、大変結構でございますわ」


 最後にわたしが魔法を披露する番になった。


 わたしは指定の場所まで移動する。


『大地に眠る火の精霊よ我に火の力を与えたまえ……』


 あれ? 炎の色が青い? なんで?


『ファイヤーボール!』


 わたしから放たれた青い炎の塊がデク人形に直撃すると大爆発が起きてデク人形が全て燃え尽きてしまった……。


 ……のわぁぁぁ! やってしまった!


 マッチの火をイメージして放ったはずなのにどうして?


「メリア様、重要なことをお伝えするのを忘れていましたわ。最初に魔法を成立させた時のイメージが固定されるのです。ですから、『ファイヤーボール』はずっと青い炎のままですわ」


 ……それぇ、早く言ってほしかったですわ。


 本日の実技の授業は、わたしの「暴走魔法少女」を披露して終わるのだった……。

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