王女様との触れ合い

 セシルとの剣の稽古を終え、次は魔法の稽古に移る。


 セシルの魔法の教師はわたしと同じ、ミリア先生だった。


「まぁ、メリアお嬢様。今日は王女様とご一緒だなんて」


「姉さん、王女様とメリア様はご友人になられたのですよ」


 お姉さん?


 ミリア・エルフォード……。


 あぁ、ミリア先生とフィーリア騎士団長は姉妹でしたのね。


「それで、今日はお二人揃って魔法のお稽古ということですね」


『ミリア先生、よろしくお願いします』


 セシルと被った。「息がぴったりね」とミリア先生は笑顔で返してくれた。


「それでは、最初に魔力のコントロールの練習からいたしましょう。メリア様、王女様に前回私がやったことを、して差し上げてください」


「はい、わかりました」


 わたしはセシルの両手をとる。


 セシルの手がとてもしなやかで柔らかいですわ……。


 いけない、いけない。集中しないとですわ。


「では、王女様。目を閉じてください」


 セシルが目を閉じる。


 わたしは強弱をゆっくりとつけてセシルに魔力を十数秒送る。


「はい、メリアの魔力が強弱をつけて入ってくるのを感じます。とても温かいですわ」


 魔力ですからね。勘違いしないでくださいませ……。


「はい、よろしいでしょう。王女様、目を開けてください。メリア様、魔力コントロールが大変お上手になられましたね」


 セシルが目を開ける。


 両手を繋いだまま目と目が合ってしまった。


 照れますわね。


 もう少し手を繋いでいたかったが、渋々手を離す。


「では、本日は『アイスアロー』の練習をいたしますね。こちらは水属性の魔法になります。水から氷に変換するのは難しいかもしれませんが、まず私がお手本を見せますね」


『大地に眠る水の精霊よ我に水の力を与えたまえ、アイスアロー!』


 ミリア先生の手から魔法陣が浮かび上がると氷の矢が生成されて、デク人形に向かって飛んでいく。


「それでは、王女様。やってみましょう」


「はい」


『大地に眠る水の精霊よ我に水の力を与えたまえ……』


 お水から氷へと変わっていくイメージはセシルにとっては難しいらしく、水のかたまりのようなものを生成するだけで限界だったようだ。


「ダメですわ。イメージが固まりませんでしたわ」



「では、メリア様。やってみましょう」


「はい」


『大地に眠る水の精霊よ我に水の力を与えたまえ……』


 ……水が凍るのを意識して、矢の形をイメージする。


 わたしの右手から魔法陣が浮かび上がり、氷の矢が生成された。


 うん? 本当に矢の形になってる!


『アイスアロー!』


 氷の矢がデク人形に飛んでいき、突き刺さる。


 弓道で的を射る感じだわ。


「メリア様、素晴らしいですわ。氷の矢も明確な形になっていましたわ」


 ミリア先生の目はハート形になっているが、フィーリア騎士団長は驚きを隠せない表情をしてる。


 やり過ぎてしまったかな?


「メリア、お水から氷に変わるイメージはどのようにしたらいいのかしら?」


 セシル、反則だわ。そんな目でお願いされたら……。


 でも、難しいわね。


 この世界に冷凍庫はございませんもの。


 どうやって伝えたらわかりやすいでしょうか……。 


「えーと、寒い冬のお外でどんどん冷えていく感じをイメージするのはどうかしら? お水がどんどん冷えていくと氷になるのですわ」


 セシルは一生懸命にイメージしている。


「メリア様は博識ですね」


「それはもう、大人の本をたくさんお読みになっていらっしゃいますものね」


 ミリア先生は笑顔でわたしの顔を見る。


 「おませさん」認定されてますからね……。


 お、セシルが再チャレンジするようだ。


『大地に眠る水の精霊よ我に水の力を与えたまえ……』


 セシルが一生懸命にイメージしている。


 セシルの手から魔法陣が浮かび上がり、なんとか氷の形に近づいたものが生成された。


 全ての水が氷になりきってない感じだ。


 でも矢の形になっている。


『アイスアロー!』


 氷の矢がデク人形に飛んでいき、当たるとビシャっと氷が割れて水が地面にこぼれ落ちた。


 この世界で水が凍るのをイメージするのは難しいわよね。


「王女様は、まだまだ水から氷にするイメージが弱いですね。次回までの宿題としましょう。それでは、今日のお稽古はこれで終了です」


『ありがとうございました』


 わたしはセシルと揃ってミリア先生に挨拶をした。


「それでは、王女様、メリア様、お部屋に戻りましょうか」


 今日のお稽古はこれで終わりとなり、セシルの部屋へ戻りお着替え、とはならなかった……!?


 稽古で汗をかいたので、セシルと湯浴みをすることになった。


 やばいですわ、意識を保っていられるかしら。


 セシルと一緒に使用人たちに体を洗ってもらい、マッサージとボディーケアまで受けた。


 極楽ですわ……。


 湯浴みが終わると使用人たちに、来た時のお洋服に着替えさせてもらった。


 そして、とうとう帰りの時間が来てしまったようだ。


「メリア、今日はとても楽しかったわ。ありがとう」


 セシルの今日一番の笑顔にわたしはうっとりしてしまった。


「セシル、こちらこそありがとう。本当に楽しかったわ」

 

 わたしも今日一番の笑顔で返す。


「それでは、メリア様。参りましょう」


「それではセシル、ごきげんよう」


 わたしは手を振りながらセシルの部屋を後にした。


 そして、フィーリア騎士団長に案内され、お父さまが待つ執務室まで連れて行ってもらった。


「おかえり、メリア。楽しかったかい」


「はい、お父さま。王女様にとても良くしていただけましたわ」


「それはよかった。では、屋敷に帰るとしようか」


 馬車までお父さまに抱きかかえられなが移動した。


 少し恥ずかしかったのですけど……。

 

 外に出ると日が傾きかけているのがわかった。


 夕焼けを見ながらの帰りの馬車は、少し寂しいというかなんというか不思議な気分だった……。

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