第1章 幸せな異世界ライフ
異世界ライフと目覚め
「お父さま、お父さま!」
わたしは無邪気な笑顔でお父さまのところへかけていき、懐へ飛び込んだ。
「おお、メリアは可愛いのう。メリアは私たちの天使だ」
お父さまは笑顔でわたしを抱き上げ、くるくると回る。
「あはは、お父さま、だーいすき!」
お母さまは、木陰のテーブルで微笑ましい笑顔でお茶を飲みながらわたしとお
父さまを見つめている。
側には薔薇園が広がっていて、お屋敷もとても大きい。わたしが一人で歩いたら迷子になってしまいそうなくらいだ。
わたしは、ブルセージ・アルストール公爵の娘のメリア・アルストール。公爵家の一人娘として生まれた。家族を愛するお父さまとお母さまに囲まれて幸せな毎日を過ごしている。
***
5歳になったある日、わたしは高熱を出して寝込んだ。
……うぅ、あついよう、くるしいよう。
わたしは「うぅうぅ」と
「メリア、大丈夫かい? 喉は乾いていないかい?」
お父さまは、わたしの手を握りながら心配そうな顔をしている。わたしは声を出すのは難しかったので、苦笑いしかできなかった。
「ブルセージ様、王宮へ行く時間でございます。あとは私どもにお任せくださいませ」
使用人たちがお父さまを王宮へ行かせようと四苦八苦している。
「おとう、さま、おしごと、がんばって、くだ……」
わたしは、お父さまを送り出そうと一生懸命に声を絞り出した。
「おお、いとしのメリア。お仕事頑張ってくるからな。心細いかもしれんがゆっくり休んでおくれ」
お父さまの過保護ぶりは凄まじい。泣きながらわたしの部屋を出て王宮へ向かっていった。
わたしのお父さまは王宮の執務官をしている。とても優秀で王国の中枢とまで言われているらしい。
「メリアお嬢様、タオルをお取り替えいたしますね」
セリアという女性の使用人がわたしのお世話をしてくれている。何度も頭を冷やすタオルを取り替えてくれる。タイミングを見計らってお水も飲ませてくれた。タオルを冷やすお水がぬるくなり、セリアがお水を取り替えに部屋を出ていく。
わたしは一人になり心細くなると、また熱にうなされる。そして、急に知らない記憶がどんどんと流れ込んでくる……。
そう、わたしは上司や部下にいじめられて会社を追い出されて……。
小説や漫画やアニメを見て異世界に行きたいなと思ったり……。
それから、白髪の老人から古い本を受け取ったら……。
流れ込んできた記憶は、前世の記憶であることは理解できた。しかし、どうしてわたしがこの世界にこれたのかが理解できなかった。
……わたしはあちらで死んだの? いきなり消えて行方不明扱いされているの?
……でもどうでもいいわ。わたしの夢が叶ったのだから。
あの悪夢のような世界からお別れできたことがとても嬉しくて涙が溢れてきた。
「お、お嬢様、大丈夫でございますか? 何かございましたか?」
部屋に戻ってきていたセリアが慌てて近づいてきた。
「セリア、ありがとう。いろいろ嬉しいことを思い出して……」
「そうでしたか。では、お嬢様のお熱を測らせていただきますね」
セリアは安堵した表情を見せ、セリアの手をわたしのおでこに当てる。
「まぁ、あんなに高かったお熱が下がっていますわ。セルビア様にご報告してきますね」
セリアは嬉しそうにわたしの部屋を出ていった。
高熱の原因はおそらく前世の記憶がフラッシュバックしてきたのが原因だと思う。
……知恵熱みたいなものなのだろうか。
今の状態は5歳までの記憶と前世の記憶が混ざり合った感じだ。記憶というより、情報やノウハウなどの知識が流れ込んだ感じのようだ。人間関係は親しい人以外の記憶はおぼろげになっている。
……異世界に転生したのだからスローライフを満喫するのよ。しかも、公爵令嬢で優雅な暮らしができるなんてまるで夢のようだわ。そして、素敵な男性に求婚されて……。妄想が広がるばかりだわ。
「メリア、熱が下がったと聞いたけど本当? 心配したわ」
お母さまがわたしの部屋に飛び込んできて、わたしをぎゅぅっと抱きしめてくれた。お母さまの温もりを感じられて本当に幸せ。嬉しくてうっかり涙がポロリとこぼれてしまった。
「メリア、大丈夫?」
「ううん、大丈夫。お母さまにぎゅぅってしてもらって嬉しくて」
「メリアったら」
またお母さまにぎゅぅされてしまった。
セリアが、わたしとお母さまのやりとりを見て涙しているのが見えた。
……たくさんの温かい家族に囲まれて生きていられるのって本当に幸せだわ。
ずっとこのままでいたいな……。
***
夕刻、お父さまがもの凄い勢いでわたしの部屋に飛び込んできた。
「メリア、メリア! 心配したぞ。熱が下がってよかった、よかった」
お父さまが泣きながらわたしに抱きついてきた。
「お父さま、ちょっといたい、いたいですぅ」
「旦那様、メリアは病み上がりなんですから、そのくらいにしてくださいませ」
お母さまがお父さまの暴走を止めてくれた。わたしがお母さまに目線を送ると「あらあら」と呟いて優しくぎゅぅと抱きしめてくれた。さすがにお父さまのぎゅぅはゴツゴツして痛かった。
……ふわふわと柔らかいお母さまのぎゅぅが一番ですわ。
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