第4話 決死の防衛戦

ルークは立ち上がった。


「みんな!まもなく夜が来る!」


「今ミファが来た場所を塞がずに来たゾンビを順番に倒すようにしたい!」


エビスは答える。


「そうだな。全て塞ぐとあいつらは部屋中の壁を壊し始める。どこから来るか分からないよりマシだろう」


ルークが剣を掲げて声を上げた。


「俺たちが最後の国だ!」


「ゾンビにより人間は滅亡を迎えたが、まだ俺たちがいる!」


「今こそ人間の強さをオーディンに見せる時だ!」


「オー!」


各々に自らを鼓舞する声を上げた。


声が静まると、砦の外からうめき声が聞こえて来た。


《夜が来た》


もはやゾンビらしい動きをする者はいない。

それは猛獣の群れに、肉を投げ込んだ有り様だった。

堰を切ったようにゾンビの大群が我先に砦に押し寄せて来た。


「来るぞ!構えろ!」


ルークは剣を上段に構え、

エビスは短剣を顔の正面に向け、

トントロは拳法の構えを取った。


より素早いゾンビが飛び出して来たが、ここまで生き残ったルーク達は精鋭だ。一瞬でゾンビは両断されていた。


続いて三体のゾンビが襲い掛かって来たが、トントロの拳法で三体は姿勢をくずした。

雄叫びと共にルークは一撃で二体を分断し、もう一体はエビスが器用に首を刈り取っていた。


私はトントロの手をすぐに治療し、バリケードや壁が壊されないかの注意を払っていた。


「ドンドン!」


「ウォー!」


まだ夜になって数分も経っていないだろう。


一ヶ所開けた為に他のバリケードは攻撃を受けていないようだ。


しかし唯一空いた入り口からは体を詰まらせるかの勢いでゾンビが雪崩れ込んできた。


次々と迎え撃つが、相手はそれ以上に容赦をしない。


それどころか、切られたゾンビが腕や足に絡み付こうとしたり、後ろに回り込んでから襲い掛かる者もいて、数の不利以上に相手は強かった。


トントロ以外にも仲間の傷が増え、私は無我夢中で大きな傷を追った順に仲間を回復し続けていた。


「昨日より多いぞ!」


「皆耐えろ!死ぬな!」


「俺の回復は良い!皆を!」


「ダメ!あなたも!皆ももう体力が無い!」


もはや誰もが生き残れないという覚悟を決めた。


急に背後から何かが吹き飛ぶ音がした。


振り向くと大型のゾンビがバリケードを吹き飛ばして入って来ていた。


エビスがとっさに食堂の食器棚を倒す。


「皆こっちだ!いざという時の為に上に登る階段を隠しておいた!」


全員が走った。


エビスが叫びながら誘導する。


「上に行ったらもう逃げ場はない。なんとか朝まで耐えるんだ!」


最後に遅れて来たトントロが、食器棚で入り口を塞ぎ立てて動こうとしない。


「どうしたのトントロ!早く逃げましょう!そんな物じゃ一瞬で壊されるわ!」


「良いんだ!」


必死に食器棚を押さえるトントロは緑色の血を吐いていた。


「もう俺はゾンビだ間に合わない!」


「でも!」


「いいから行け!」


バリバリと棚が壊される音がする。


「もし、俺がゾンビになったら躊躇せずに殺してくれよな」


いつもの優しい声が聴こえた。


「トントロ!トントロ!」


破れた棚から無数の手が伸びており、トントロの体中を掴んでいた。


「聞いて!ずっと言えなかった事!」


「あなたは!あなたは!」


「いないの!もういないの!」


トントロの目が見開いている。


「ゲームの外でトントロに合ったの!」


「海外に引っ越す事になったから、もうオーディンはしないって!」


トントロの見開いた目がこちらを見ている。


「だからあなたは本当の人格じゃないまま、ずっと、ずっと一緒にいたのよ!」


「だからか」



「いつの頃か、新しい事が何も出来なくなったのは」



「きっとあなたは、本当のトントロがしてた事しか出来ない!」


「学んでない事は出来ない」


「だから素手にこだわったトントロ以上の事は出来なかったの!」


トントロは目を閉じた。


「でもあなたはもう本物よ!私にとってトントロはあなた!あなたなの!」


ついに大型ゾンビが棚を引き剥がした。


トントロは握ったままの棚の木片を持ち上げると、大型ゾンビに振り下ろした。


トントロの口が僅かに動いた。


「イケ ハヤクイケ」


その後にアリガトウと口が動いた気がしたが声にならなかった。


トントロの名前を叫びながら私はルークの後を追った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る