第2話 最後の晩餐

砦に着いた私たちは、道中で拾った木片を使い、簡易的だがバリケードを作成した。


作業の手を止めずに私は聞いた。


「ねえ。エビスは弓を作れそう?」


「いや試したがここでは難しそうだ。資材は全てバリケードに使ったよ」


一枚岩の上にある砦なだけに水場も遠く、外は荒れた岩肌が続き、木材の調達も難しそうな立地であった。


ただ幸いにも食料の備蓄はあり、壊れている壁もない。当面の拠点としては、前の砦よりも安全であるのは確かであった。


私は食堂を見渡して言った。


「もう私たちしか居ないんだから、守る範囲は食堂だけで良いよね」


砦の中心にはそれなりの広さがある食堂があった。


砦は石造りなのだから入り口を塞いでおけば良い、と言うのは前までの話である。

強靭な人間がゾンビになったことで、石の壁でもお構い無しに穴を開けてくる大型ゾンビが最近現れるようになった。


だから壁に穴が空いたらすぐに撃退し、その穴を迅速に塞ぐ事ができる程度の部屋が、防衛には重要となっていた。


ルークと私は食堂のイスに座ると、ルークは不意に疑問を呟いた。


「それにしても、王達はどうやってやられたんだろう」


「いくら不意を突かれたとしても簡単に負けるような人達では無いはずなのに」


私も思案をしてみたが、納得の行く答えは得られなかった。


「ねえみんな!夜まで時間もあるし食事をしましょう」


そう言うと4人は思い思いの食料を持って食堂の椅子に戻った。


「いただきます」


律儀にいただきますを言うのは私ぐらいなのであろう。


皆は黙々と食べ始めた。


エビスは手を止めて言った。


「なあ、おそらく今夜もゾンビが来ると思うが、お前たちはログイン出来るのか?」


ルークとトントロは大丈夫だと言い、私を見つめる。


「私も大丈夫だよ。ただ少しお風呂に入って来たいから、少し遅れるかも」


「でもゲームが勝手に操作してくれるから居るか居ないかは分からないだろうけどね」


私はハハハと笑ったが、皆の顔は笑っていなかった。


ルークは言った。


「ミファ。ここまで一緒に頑張ってきた仲間たちだ。今日も誰が生き残れるか分からない。」


「いない時にお別れは寂しいだろ。だからミファが戻って来るまで皆で生き残ろうな!」


皆は決意を口々に言い合っていたが、私の入浴はやたら重大な事になってしまった。今日はシャワーだけにしよう…


チャリーンというスプーンの音が響き渡った。


「トントロどうしたの?」


「あ、いや。ははは、スプーンも戦いたいってよ」


その後は皆で談笑し、最後かもしれない早めの晩餐を楽しんだ。


私は特急でシャワーを浴びて戻ると、どうにか日が暮れる前には帰って来れた。


「あれ、誰もいない」


「ルークー」


「エビスー」


そこまで広くはない砦だがすでに薄暗い。

声をあげて探していると、不意に後ろから気配がした。


「ダメなんだ。どうしてもダメなんだ」


ビクッとする私。


「と、トントロ?」

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