二話②

 突然に、眠りから覚めてしまった。

 いったい何時だろう? まぶたには月の薄明かりしか感じないから、朝ではない。夜明け前の、ずっと闇が深い時間のようだった。

 一度、起きあがろうとするも、体に力が入らない。まぶたの薄皮がぴくぴくと動くばかりで、目も開けられないのに、意識だけはいやにはっきりとしている。

 ――これが金縛りってやつか。

 それは心霊現象などではなく、疲れ切ったときに起こるものだと聞いたことがあった。布団ではなく畳の上でうつぶせに、枕も使わず寝てしまったことも悪影響したのか。仕方なしに、そのまま横になってはいるものの、すぐには眠くならない。

 明日も早くからましろのことを探したいのに。そんな思いに神経がたかぶったのか、一向に眠気はやってこない。

 時間がそれでも、目をつぶったままでいると、ようやくうとうとしかけてきた。

 あぁ、よかった。やっと眠れる……。

 そう思ったとき、ふいに物音が聞こえた。

 とん、とんと、何かを叩くような音。方向からして、窓を叩いている音のように聞こえる。 

 気のせい……、ではない。確かに聞こえる。幻聴でもないはずだ。

 その正体を確かめてみようとしたけれど、金縛りがつづいて、体を動かすことができない。

 ましろか? 

 そんなわけない……、いや、だいたい、ここ二階なんだぞ!

 そのことに気づいた瞬間、背筋がぞっとした。これは風が窓を揺らしているのでもないし、葉っぱか何かが窓に当たって出た音だとも思えない。

 とん、とん……。

 やっぱり、これは誰かが窓を叩く音だ。地上から窓まで、三メートルはある。脚立にでものぼって、俺の部屋の窓を叩いているとでもいうのか。こんな真夜中に、いったい誰が、どうして、そんなことをする? 

 その正体も理由も確かめられないため、だんだんと恐怖が身の内で大きくなってくる。

 んく……。

 誰かの、声?

 ……ん。

 窓を叩く音のなかに、人の声のようなものが混じった。

 なんなんだ。泥棒か誰かのいたずらにしても、しつこすぎる。

 感じた怒りで、金縛りと身の内に巣くった恐怖心に抵抗する。

 すぐには動けないけれど、だんだんと体に感覚が戻ってきた。

 今ではもう薄目も開いて、あと少しで、起きあがることだってできる。

 誰だ、誰だ、何なんだ……!

 ようやっと体に十分な力がいきわたった。そのまま勢いよく上半身を起こした俺の目に写ったものは――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る