第9話 可愛い旋風

「アルタ、これからこの人と大事な話があるから、また来なさい」


「えー、やだー! 来たばっかりなのにー!」


「困ったな……」


 白の毛並みをしている獅子王アラガド・バローグは、弟アルタ・バローグの無邪気さとわがままぶりに、苦笑した。


「……アルタ王子」


 唯一の人間となった、ティオ・ファリスは、アルタの前に跪き目線を合わした。


「王子!? ぼくっ、王子なの!?」


「王の弟君おとうとぎみであらせられるので、王子となります」


「ぼく、王子なんだー! わーい!」


 アルタはぴょんぴょん跳び跳ね、耳は嬉しそうに前後にぴょこぴょこ動き、尻尾は左右にぶんぶんと揺れた。


 ティオは、


(……ダメだっ、可愛すぎるっ!)


 頬が緩むのを止められなかった。


(だから! こっちの方がダメなんだって!)


 ティオは目を瞑り、首を横に振り気を引き締めた。


「アルタ王子」


「はい!」


 アルタは元気よく手を挙げた。


「……かわ、じゃなくて。王子にお願いがあるのです」


「うん! ぼくに任せて! だってぼく、王子だから!」


 アルタは謎の自信満々で、にっこり笑った。


「…………」


 ティオはまた頬が緩みそうになり、慌ててきりっとした男らしい表情を作った。


「これから、俺は王と大事な話をしなければなりません。だから、扉の前で見張っていてほしいのです」


「そっか! 誰かに聞かれたらまずいもんね!」


「そういうことです」


「わかったー! では! アルタ王子! いってきます!」


 アルタはびしっと敬礼し、尻尾を揺らしながら謁見室を後にした。



 アルタの姿が見えなくなると、


(自分のこと、“アルタ王子”って……。王子って言うなんて……。本当にダメだ! 危うく抱きしめそうになった!)


 ティオは顔を両手で覆い、彼の可愛さに悶えていた。


「……俺より、アルタの扱いが上手いな」


 ティオの背後に立ったアラガドは悔しそうで嬉しそうな複雑な表情をした。


「……祖国でよく、王子のような幼い子と遊んでいたんです。だから、何となく」


「そうか。……実は大事な話と言うのはだな」


「はい」


「……お前の祖国、ディーネについてだ」


「…………」


 ティオは立ち上がり、向き直るとアラガドを見据えた。


「……俺たち、獅子獣人が、お前の国を滅ぼしてしまったのは、知っているな?」


「はい」


「……凶暴化したのには、訳があるんだ」


「訳、とは」


「……どの獣人にも必ずやってくる、厄介な発情期だ」

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