地平線の仲介者〜死んだはずの僕が転生を止める役目を受けました!?〜

大井 芽茜

第1話 プロローグ

 ある春と夏が入れ替わる頃。


「……はぁ」

 少年は、ジメジメとしたコンクリートを歩きながら、静かにため息を吐いた。



 ぼやけたような視界の中、必死に足だけを動かし帰りの電車に乗る毎日。すぐ近くの未来さえ明るく見えず、前の窓に移った少年の姿さえ黒ずんで見えた。


(なんでこうなったんだろう)

 自分に問いかけても当たり前のように返事は聞こえてこない。


 とりあえず。僕の話をしよう。

 名前は 信田しんだ 彩夢さいむ、高校3年生だ。


 部活も勉強もぱっとしない、そんな人生だ。それどころか友達にさえ見放される始末だし。



『おい、彩夢。既読スルーして何日だ? そろそろ返事をしてくれよ』

 メッセージが来たが返す気力も無かった。もう、なんで生きているのか。生きている心地が全くしない。


 あの時、もう少し話し合えばとか、黙って丸め込まれれば。あの時……そんな考えや仮説が浮き出ては振り落とす。


 毎日、毎日。いろんな事を考える。国とか、どうしてこんな社会の仕組みが出来たのかとか、人間とはなんなのか。

 そんな答えが出ない問答をただひたすら考える。やる事も何もかもを放り出して。答えが出ない問いを。


「……」

 しかし、今日は違った。ついに頭は限界を超えたように真っ白な空間に1つの叫びを描きなぐった。


「死にたい」と。

 こんな事はよくあったが、ここまでハッキリしたのは初めてだ。だから僕は死のうと思う。潮時だろう。


 昔から異世界転生がしたかった。

 才能にありふれながら仲間がたくさん欲しいと思った。

 僕は集団心理が大っ嫌いだし、最近は数人の声を聞くだけで鳥肌が立つほどに反応する。


 今は、争いが無くなって平和な世界になった。

 そんな世界なのに、人々は共通の敵を作り出すことで争いを生む。暴力や暴言が正当化され、被害者の思いは報われない。

 悪い事も何もしていないのに。



『未成年が……!』『法律を!』

 そして、悪くない奴が自ら死んでいく。僕は自殺者が急に増えているというニュースを朝ご飯を食べながら眺めていた。



 急に増えたのは、おそらくこれだろう。僕がスマホのアプリを開くとたくさんの記事が目に入ってくる。


『生死をさまよった俺が見たもの。』

『女神を見た!』

『転生は実現する!?』

 最近になって、神が転生させてくれるという話がネットで話題になっている。ニュースには出ないが、インターネットでは噂が大きくなっていた。


 そこからというもの、自殺者は増える一方。

 僕自身、死ぬのは怖いと思っている。でも、何となく幸せになれるならという気持ちもあった。


 僕だって頑張った。必死に足掻いて……それでも精神的な限界が目の前に迫っていた。積み重なったチリが心の中を埋めつくし、どれだけ息を吸っても肺に綺麗な空気は流れない。

 遺伝と環境主体の世界じゃ僕みたいな人間は生きづらい。


 いつの間にか、ネットの記事を何度もなんども開いて確認していた、前から馬鹿らしいと思っていても目が追うのを止めてくれない。ブルブルと好奇心だけが高だっていく。



「――っ。」

 僕の身体が、本当に異世界があるのか試してみたいと声を出した。好奇心の高まりが収まらなくなっていく。



 もし、本当にあるなら死んでも。

 無いなら無いでこの人生に幕を閉じてもいいし、もし本当に、本当にあるなら新しい環境で幸せになりたい。



 町を苦しめる魔王を倒してハッピーエンド!

 友情、努力、勝利!そして、一生僕達は笑って暮らす。


 そんな夢のような日々。仲間との楽しい毎日。夢だと分かっていても僕は幸せを欲していた。



 僕は、重い荷物を背負い家を出る。

「今日は自転車に乗らないのかい?」

「うん。近いから。」


「そうかい、行ってらっしゃい。気をつけてね。」

 ばあちゃんの笑う顔が僕の心に突き刺さる。それでも笑顔を無理やり振りほどき、僕はなんとか道路の前まで来ていた。


 死に方は簡単だ。敷かれればいい。



 でも、

「……いや、それは駄目だ。」

 僕は足を止め考えた。このままでは誰かが僕を殺す羽目になる。親は怒り狂い、罪の無いその人を一生恨む事になるだろう。それは、それだけは、良くない事だ。


「……」

 自主的に出来てかつ頑丈なもの。そんな僕の視界にあるものが不意に映りこんだ。

(これだ!これなら)


 自分で言って何だが……僕は昔から天然だった。自転車でよく田んぼに落ちたりしていたし。親も僕らしいと思って泣きじゃくる事はないだろう。


 この時の思考は酷く偏っていた。今、改めて考えてみれば普通に泣くに決まっている。それにどんな方法を考えても周りに迷惑をかけてしまう。

 そんな単純な事がそのときの僕は分からなかった。



 僕は本能に従うように、家にこっそりと戻り、チャリにまたがって駆け出した。流石に後遺症で生きるのだけは避けたい。

 僕は対象を睨みつけ地面を力いっぱいに蹴り飛ばした。中途半端にはしたくない。

 70m


 これだけ、ぶっ飛ばせば電柱でも大丈夫。

 ちなみに今は朝の5時30分。安心してくれ。


 残り、30m

 風が僕を吹き抜ける。

 まるで行って来いと言うように。


 10m

 何かが僕の背中を押すように。


 5m


 さようなら


 1



 大っ嫌いな僕の世界

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