小さな冒険者達のスタート

 クエスト終了報告をしてから翌日。


 ギルド・グラーナの建物のすぐ近くにある空き地にて新人講習。貴族の服から一般庶民の服に着替えた2人がギルドの教官から言われた通りに頑張っている。


「水属性!お嬢様、見て下さい!僕もやっとスキルが使えるようになりました!」

「わぶっ!それは分かったからこっちに向けないでよ!水がかかったじゃない!」


 ようやく男の子君のデルト君にも属性が出た、と言っても2人とも属性の発現がなかなか早い。対するお嬢様のマイちゃんは火属性のようだ。


 このギルドは新人教育に力を入れてるのでこうしたスキルの使い方から教えてくれる。こう考えてみるとグラーナに所属した2人はツイてるのかも知れない。


 ウルカン領でルーブルが回収した魔石をギルドに納入する時、ボクはアースドラゴンやドラゴニュートなどの大物の魔石と引き換えに、あの子達の新人講習をしてもらえるようギルドの教官達にお願いした。

 ギルドとしてはレベルの高く上質な魔石をタダで手に入れられるのだから2つ返事で了承してくれた。ひと通りの基礎訓練までは面倒を見てくれるそうだ。


 クエスト中に手に入れた魔石やドロップアイテムなどは獲得した冒険者のもの、というのが冒険者の暗黙の了解だ。でもあのモンスター達を倒したのは領主様達だから2人のために使うのが正しいと思う。ボク達には依頼報酬と自前で倒したリザードマンの魔石のお金があるから問題ない。


 黙って魔石を換金すれば大金が入るのにも関わらず、ボクの出したこの名案にルーブルが快く賛成してくれた事が何より嬉しい。やっぱりボク達は最高のパートナーだよ!


 ◇


 ギルド御用達の武器屋で2人の武器選びをする。最初から伝説級の武器を持たせるワケじゃないのでボク達のポケットマネーで充分買える。


「僕はやっぱりお嬢・・・マィを守りたいからこのシールドで!」


 デルト君は武器よりも40センチメートルくらいの小盾のカエトラを選んだ。この子はしっかりしているけど戦闘になるとどうだろうか?

 またデルト君はお嬢様を「マィ」呼ばわりして敬語も話さない様にしている。何でもお嬢様からお願いされたらしくてそうしているようだ。時々クセでお嬢様呼びに戻っちゃうけど。


「わた、アタシはあのおっきな武器がいい!」


 マイちゃんが指さしたのはパルチザン、大きな穂先のついた2メートル弱の槍だ。


「う~ん、パルチザンかぁ・・・あれは今のマイちゃんじゃ重すぎて使えないよ?」

「だったらクォーターパイクにしたらどうだ?コイツを楽に振り回せるようになったらショートスピアに変えて、最後にパルチザンを持つといい」


 ルーブルが持ってきたのはクォーターパイク、長さは60センチメートルと槍にしては短い。でも今のマイちゃんなら十分に扱えそうだ。練習用にはちょうどいい。


「そう致しま、そうするよ!・・・これがアタシの武器だぁ」


 マイちゃんはルーブルからクォーターパイクを受け取ると大事に抱きしめてほほ笑む。2人に付き合っているボクが言うのもなんだけどこんな小さくてカワイイ娘が武器を持って嬉しそうにしているのはどうなんだろうか。


 それと今まで使っていたお嬢様言葉は冒険者の間じゃ目立ち過ぎるから、この娘は自分で蓮っ葉な言葉にしようとしている。


 ◇


 お昼時。ギルドの酒場にて肉の無い豆スープと堅い目のパン4人前を頼む。

 この子達はお貴族様生活だったから一般庶民の味が合うかどうかが気になっているので敢えて一番安いメニューにした。嫌でもこの味に慣れておかないと冒険者はやっていけないしね。


 マイちゃんとデルト君は出された料理を綺麗な所作で静かに食べる。見ているとこっちまでマナー通りに食べなきゃって思ってしまう。


「ふぅ、味は悪くないけどアタシの家だったら毎日肉は付いていたわねデルト」

「いけませ・・・ダメだよマィ、ウソついちゃ・・・ウルカンでも肉がつくのは月に1回あるか無いかだったよね?」

「むぅ・・・デルトのイジワルぅ」


 そう言えばウルカンの屋敷を追い出された時に、温めた非常食を食べさせたけど別段好き嫌いも言わなかったなこの子達。


「あはは!だったらここの料理も心配いらないね?」

「はい、ご領主様は質素倹約されていた方でしたので毎日の献立は今の食事とよく似ていました」


「だ、だけど・・・モンスター倒して自分でお金を稼げるようになったら毎日ご馳走食べてもいいよね?」


 マイちゃんは他のお客が食べているご馳走に憧れているようだ。しかしルーブルは優しく諭す。


「クエストじゃ何日追いかけても目標のモンスターが見つからない事だってあるんだ・・・毎日のご馳走はなかなか難しいぞ?」

「むぅ、だったらしっかり毎日食べて強くなってやる!デルト、パンを寄こしなさい!」

「マナー違反ですよ、それにこれは僕の分なんですから!」


 ◇


 ギルドの闘技場。新人訓練から更なる武術講義やスキル講習と様々な用途にて使用される。闘技場の隅っこでルーブルと一緒に2人の頑張りを眺めている。


「はぁああああああ!・・・きゃっ!」

「まだまだ!足の踏み込みが甘いぞ嬢ちゃん!!」

「はぁはぁ・・・も、もう一本!」


 マイちゃんは相手がギルド教官でも絶対に怯まない。クォーターパイクと同じ長さの棒を握りしめて立ち向かっていく。少しずつだけど足の使い方も飲み込んでいっている・・・間合いを掴むのも時間の問題だね。


「ぐ・・・ぅわぁああっ!」

「防御は腕で受け止めるんじゃないんです、身体全体で受け止めるんです!!」

「はいっ!・・・もう一回お願いします!」


 デルト君は別の教官から盾での防御方法を習っている。見た時は戦闘に向いてないかもと思ってたけど決して逃げ出さない根性を持っているようだ。これならマイちゃんの盾となれるだろうな。


 隣にいるルーブルがつぶやく。


「あの2人、相当頑張っているな?」

「うん、なんだったらあの子達が一人前になるまでボク達も面倒見て上げてもいいんじゃないかな?」


「ああ、エーゼスキル学園には急いで行く必要もない・・・少し腰を据えるか?」

「そう言ってくれると思ってたよ、ボクはそんなルーブルが大好き!」


 腕を抱きしめてルーブルのほっぺにキスする。くすぐったそうにして身をよじるルーブルを離さないように頭を彼の肩に持たせる。


「ルーブルさんにウィルマさん!アタシ、訓練終わったよー!」

「ぜぇぜぇ・・・お嬢さ・・・マィ、ちょっと待ってよぉ」


 こっちに向って手を振るマイちゃんと疲れてへろへろになってるデルト君、ボク達も手を振り返す。


 何だかボク達があの2人の両親になった気分だ。

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