第27話

 いくら円安でも、20億円越えって有り得なくない? そんな金額をローランドだけならともかく、他のスタッフにまで支払っていたら、ウクライナも国連も潰れるんじゃないかな……?

 

 もうっ! そうちゃん、詐欺師だ詐欺師だって、呪文みたく唱えないで。まだ分からないでしょ!


 でも……この金額はあまりにも現実離れしているよね。疑った方がいいのかも……。何て返信すればいい? 

 

 〖わたしにとってはとんでもない大金です。教会の銀行口座に直接振り込んでもらうことは可能ですか?〗

 

 【ごめん。現金は小包に入っているんだ。だから、近々僕が日本に行って君に会う時まで、荷物を預かっておいてほしい。心配しないで、my love。分かってほしい】

 

 〖決定的な問題が三つあります。


 ① わたしの超小さな家の超小さな部屋に、小包を置くスペースがありません。


 ② わたしの両親はあなたのことを知りません。あなたが話してはいけないと言ったので。ですから、見ず知らずの人から変な小包が届いたら驚きます。どう説明しましょうか?


 ③ わたしの住まいはド田舎なので、ドルを円に換金できる大きな銀行が近所にありません。かなり遠くまで行く必要があります〗


 【うーん……そうなのか。でも、自分の部屋はあるだろう? 君のご両親の名前は??】

 

 ……部屋の件はともかく、ここで親の名前を訊いてくるとか、おかしくない?

 

 そうちゃん、どうしたの? 

 

 あまりにもスカポン詐欺師で興醒きょうざめした?

 

 スカポンとか言わないで。でも……さすがに、わたしもなんか怪しいって思い始めてきた。


 そんなことより、次に何て返信すればいいのか教えてよ。


 〖わたしの家がどれほど小さいか、おそらくあなたには想像できないでしょう。そして、わたしの大変小さな部屋も。


 とりあえず献金はせず、現金はお預かりします。しかし、それほどの大金を保管するとなれば置き場所はもちろんですが、何より安全性が大切です。セキュリティーのしっかりした大手の銀行の金庫で厳重に管理してもらうのがベストです。そのためにはやはり費用が掛かります。そちらも負担していただけると助かるのですが……〗


 いや、ちょっと、そうちゃん、ここまで言っちゃうと疑っていることをさとられない?

 

 あ、まだ続きがあるのね。

 

 〖そんなに急がずとも、まずはウクライナから一度アメリカの自宅に戻ってはどうですか? 娘さんやお友達と会って、ゆっくり過ごした方が良いと思います。あなたにとっても良い休養になりますし。

 

 その後、日本に来てください。わたしは引っ越す予定もありませんし、慌てることはありませんよ。この日本の片田舎で、あなたを待っております〗


 そうちゃん、大したもんだね。よくこんな調子のいい嘘八百が浮かぶね。


 嘘には嘘で対抗すればいいってこと?


●翌日

 

 なんかさー、今日はローランドからLINEが一度も来てないんだけど。今までこんなことなかったよ。

 

 もしかして、疑っていることを悟られたかな?

 

 そうちゃん、どうしたの? これで終わるのはつまらない?


 何面白がってるの? この前までニセ医者とか詐欺師とか言って怒ってたくせに。


●さらに翌日

 

 やっぱりLINE来ないね。

 

 そうちゃん、また変な事考えてる?

 

 〖大丈夫ですか、ローランド? まさかテロリストに襲われたとか? とおおおおっっっても心配ですぅ~!!!〗

 

 わざとらしくない? これ。


 あ、返信来た。早っ!


 【今、死ぬほど静まり返った所にいる。ヤバい状況だ】


 【君の助けが必要だ】


 【昨日、ベースキャンプに戻る途中、襲撃にったんだ】

 

 【三人の兵士が殺された】

 

 【どうかこの恐ろしい状況から僕を救い出してくれ】


 ……だってさ、どうする? 見え見えの嘘に乗ってみる?


 〖それは大変! でも、どうすれば良いですか? わたしはただ祈ることしかできませんが……〗

 

 【・君のフルネーム

  ・自宅の住所

  ・町か市の名前

  ・国

  ・LINE : ID

  ・e-mail アドレス

  ・最寄りの空港

  を、今すぐ教えてほしい!】

 

 【そうすれば、僕の荷物が安全な日本の君の所へ発送されるように、運送会社に登録できる】

 

 そうちゃん、そんなに爆笑しないでよ。

 

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