第25話

 【そうか、忙しいんだね。君は働き者の女性だ。


 今日は凄いことがあった。パトロール中にテロリストに襲われていた兵士達をみんなで助けたんだ】

 

 〖本当ですか⁉ 素晴らしいですね。でも危険な状況だったでしょう〗

 

 【ああ、恐かったよ。まったく、こんな戦場から早く出たいな】


 そうちゃん、嘘くせぇ、とか悪態を突かないで。ローランド、超お手柄てがらなんだから。

 

 〖あなたはとても勇気のあるお医者さんですね。それに、わたしなんかよりもずっと必死に働いています。


 でも、どうかあなた自身がテロリスト等に襲われないように、十分に注意してください〗

 

 どうしたの、そうちゃん? また何かいちゃもん付ける気?

 

 え? そもそも、二国間が戦争をやっている只中で、テロリストなんかいるのかって?


 ・テロリズム【terrorism】


 ① 政治目的のために、暴力あるいはその脅威に訴える傾向。また、その行為。暴力主義。テロ。


 ② 恐怖政治


       by 広辞苑 第六版


 そうちゃん、いちいちご丁寧に調べなくていいって。


 うーん……でも、言われてみると、戦場で実行する行為とはちょっと違うような……?


 敵国の兵士が襲撃してきたってこと? 


 おそらく、総称だよ。ローランド達はそういう連中全般をテロリストって呼んでるんだよ。絶対そうだよ!

 

 【ありがとう、my love。実はあの後、僕達のチーフにウクライナ政府からメールがあってね。近々、兵士を救助した御礼として、僕達に謝礼金をくれることになった。


 でも、ここのところ戦況もどんどん悪化している。通帳や貴重品を含めた僕達の荷物も奪われてしまった】


 〖ローランド、戦地からはいつ出られるのですか?〗


 【まず、退職届が国連に受理されなくてはいけない。


 ああ、もうここは酷い有り様でいっぱいだ。死にたくないよ】

 

 ローランド、精神的にかなり追い詰められてるね。大丈夫かなぁ?


 でも、こっちからは祈ることしかできないね。


 そうちゃん、嘘だ嘘だ嘘だって、連呼しないで。


 ああでも、確か前にも言ってたね。MSFと国連は関係ないって。

 

 すると、国連のお許しなんか得る必要はないような……。まあいいや、返信返信。

 

 〖一刻も早く、あなたがそこから出られることを祈っています。


 とりあえず、今夜は夢で逢えますように……〗

 

●翌朝


 キレイ! ピンクの薔薇とガーベラ! 細いガラスの花瓶かびんに入っていて、なんか品があるね。


 ローランド、少しは元気が出たのかな?


 【毎朝、あなたは目標を成し遂げるための力を与えられます。いつも、目を開けていなさい。


 おはよう、my love。今日も気持ちよく目覚めることができたかい?】


 挨拶の前に聖書の御言葉みことばがブッ込まれているメッセージにも、もうすっかり慣れてきたよ。それだけ熱心なクリスチャンなんだね。


 〖こんにちは、ローランド。いつもlovelyなお花をありがとうございます。今日はそちらで由々ゆゆしき日ではないことを願っています〗


 【女遊びで超忙しかったよ。こんばんは。今日もいい一日だったかな。大きく口を開けて笑おうじゃないか。今日はどんな日だった?】


 なんか、言ってることが急に支離滅裂しりめつれつになってきたけど、どうしたんだろう? 


 え? とうとう本性を現したんだって?


 違うよ! 戦地で緊張状態が長く続いて、ちょっとおかしくなってるんだよ。


 やっぱり、これ以上戦地にい続けるのは、ローランドにとって精神衛生上良くないね。


 だからぁ、酒が入ってるわけでもないよ! 厳しい規律があるって言ってたし、お酒なんか飲めないよ。常に不測の事態に備えてないといけないんだから。


●その夜


 〖今日はとろけてしまいそうなほど、物凄く暑かったです。仕事はそれほど忙しくはありませんでした〗

 

 【今、何してる? My love、実はちょっと問題が起きてね】

 

 〖今、テレビを観ています。

 

 今日はいつもにも増して大変な日だったのですね。でも、毎回あなたからLINEを貰うと、わたしはとても安心します。生存確認にもなりますし〗

 

 【ありがとう。ところで今、君に大事な相談があるんだ】


 テレビを観てるっつてんだろ! こっちの都合も考えろよ!


 そうちゃん、また怒らないでよ。相談したいことがあるって言うんだから、聞いてあげようよ。

 

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