第8話 決闘してみました

 日が変わり、セレナはステームに決闘を申し込んだ。ステームという男は決闘を受けた。


 セレナの出した条件は今後一切彼女に関わらない事だが、ステームが出した条件はセレナ及びレティシアはステームを彼氏とする事だった。


 俺にはよく分からないが、負けてはいけない事は分かる。


 学校が終わり俺達は剣技場にいた。剣技場は円形の広いフィールドだった。三対三なら問題なく自由に戦えるだろう。



「ステームから対戦方法を勝ち抜き戦でって話しが来たわ。申し込まれた方に対戦方法を決める権利が有るから仕方ないんだけど……」



 レティシアは心配そうにセレナを見た。



「わ、私が先鋒をやります!」


「えっ!?」


「わ、私の問題で、ですから……か、勝てなくても先鋒を、や、やらせて下さい!」



 レティシアはセレナの瞳を見て彼女の決意を確認した。


 先鋒はセレナ、次鋒はレティシア、大将は俺らしい。


 剣技場にステーム達が入って来る。



「多いな?」


「大丈夫よ。何人いても対戦は三人、先生が一人いるから審判ね」


「そうか」



 フィールドの真ん中でステーム達と相対する。



「まさかレティシア嬢から好意を寄せられるとは嬉しいかぎりですな」


「何バカな事言っているのよ!」


「フハハハ、一刻後に貴女が口にする言葉を言った迄ですよ」



 レティシアはステームを鬼の形相で睨んでいる。綺麗な顔が台無しだな。それもこれもあの男のせいか。俺も少しやる気が出てきた。何故だろうか?


 セレナがフィールドの中央で相手が出て来るのを待つ。フィールドにはセレナと審判の教師しかいない。



「ステーム! 早く先鋒出しなさいよ!」



 ニヤニヤと歪た笑い顔のステーム達。



「何を言ってるんだいレティシア嬢。こちらの先鋒なら既にそこにいるではないか」



 ステームの言葉に驚愕の顔をするレティシア?



「どうした?」


「う、嘘でしょ……」



 フィールドの教師が剣を鞘から抜いた。



「始めるか」



 体格がよい大柄な教師が剣をセレナに向ける。セレナは青い顔で震えていた。



「アルクマッド先生……。黒狼騎士団にも所属している先生……。か、敵うはず無い……」



 絶望するレティシア。そのアルクマッド先生は一歩、また一歩とセレナに歩み寄る。



「そ、そ、それでも……」



 カタカタと震える手で剣を鞘から抜くセレナ。セレナは勇気を見せた。


 敵わぬ者に対して逃げる事も大切だ。しかし今は立ち向かう時。見事だ! 



「が、頑張れセレナー!」



 レティシアもセレナが見せた勇気で気持ちを持ち直す。セレナの目の前まで歩み寄ったアルクマッド先生は剣を一閃しセレナを吹き飛ばした。一撃で気を失ったセレナ。しかし今の経験は彼女を育てる。俺も襲い来る飛び蜥蜴に何度負けた事か。



「さて、次はどっちだ?」



 余裕の笑みで俺達を見るアルクマッド先生。



「あたしが行くわ! セレナが頑張ったんだもん。あたしが一撃でも当ててみせる……。だから……、だからライ……、絶対勝って欲しい……」


「分かった」


「じゃあ行くね」


「待てレティシア。先生が剣を振る前に僅かに左足の爪先が動く。その瞬間に斬り掛かれ」


「う、うん、分かったよ!」



 レティシアはフィールドの真ん中まで行きアルクマッド先生と相対する。



「バーミントン侯爵の娘か。女にしては剣の腕前はまずまずらしいな」


「先生! 何故先生がステームなんかと!」


「フン。カネ以外に理由があるか?」


「……そんな……」



 剣を抜くレティシア。しかし格の違いは明らかだ。集中しろレティシア。


 余裕の笑みでまたしても剣を構えるアルクマッド先生。その大きな気に飲まれる事なく剣先を向けるレティシア。動くぞ!


 アルクマッド先生が剣を振る一呼吸の間、僅かに動く左足爪先の動きに反応したレティシアの見事な突きが先生の頬を掠めた。


 更にレティシアは連撃の突きを力の限り振るった。先生の頬には二本、三本と傷が増えていく。見事だ!



「うぜえーーーッ!」



 アルクマッド先生が大きく剣を振るいレティシアを吹き飛ばす。更に迫撃しレティシアに斬り掛かる。もう勝負は着いている、その必要はないだろう。



「頑張ったな」



 アルクマッド先生との間に俺は入りレティシアを抱きかかえ跳躍した。



「ら、ライ……」


「なかなか良い突きだったな」


「……頑張ったかな、あたし」


「ああ、後は任せろ」



 俺はレティシアを気絶して横になっているセレナの隣に降ろす。



「何だお前は? 生徒では無いよな?」


「先日から美化職員をしている者だ」


「今の動き……まぁいいか」 



 俺は剣を抜きながらフィールドの中央へと行く。先ほどの俺の動きを見たアルクマッド先生も隙の無い構えで待ち構えている。しかし……。


 中央に駆けていく俺。トップスピード迄には距離が足りなかったが、それでも先生が剣を振るより先に俺の剣が当たる。


 一閃!


 俺の一撃で先生は剣技場の壁まで吹き飛び、壁が大きく崩れる中で先生は気を失っていた。


 俺はレティシアの方を見ると彼女は瞳に涙を浮かべ喜んでいた。綺麗な顔が戻って良かった。



「次」



 俺はステーム達を見る。驚いた顔の彼等であったが二番手の男がこちらに歩いてくる。その顔に嫌らしい笑い顔を浮かべて。


 そして周囲から小さな声で数人の呪文の詠唱が微かに聞こえる。見えない者達の声。聴力が百倍以上になった俺以外には聞こえないくらい小さな声で。



「なるほど。旋風!」



 俺は剣を大振りに振るう。烈風剣の修行中に身に付けた旋風剣。刃先に剣気を乗せて飛ばす技で烈風剣程の威力はない。


 旋風剣の剣気をフィールドの端に集まっている見えない集団に向けて放つ。剣気の波動は見えない集団を吹き飛ばした。



「な、なに!?」



 驚くレティシア。



「…………」



 対戦相手の男は顔面蒼白だ。まぁ仕方ないな。



「す、ステーム様! む、無理です!」


「さ、策を練る! 時間を稼げ!」 



 なかなか俺の前に来ない男。俺から近づくが及び腰だ。力の差があっても勇敢に立ち向かったセレナ。敵わぬと思っても一矢報いたレティシア。しかしこの男にはずる賢い策しか無かったようだ。

 

 ワンステップで男の懐に入り剣の腹で胴を払う。これが本当の決闘であればこの男は死んでいた。


 ん? 軽く当てたつもりだったが、男は剣技場の壁まで飛んで行ってしまった。


 そして……、ステームは仲間を見捨て背中を向けて剣技場から敗走している。もはや正面から剣を交える必要もないだろう。



「旋風ッ!」



 俺は空を一薙ぎし逃げるステームの背中に剣気を当てた。「ギャグウェ」と蛙の様な鳴き声でステームは前のめりに倒れ意識を失った。

 


「話しには聞いていたが、まさかアルクマッドを一撃とわね」



 剣技場の別の入り口に理事長のお婆さんが立っている。気配感知等も百倍以上になっている俺がその気配に気が付かなかった……。


 凄いな! 理事長お婆さん!


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