第8話 意外な結末

 あの日から裕子は部屋にこもり外を出歩かなくなった。

 裕子の部屋はカーテンが閉ざされたままで中の様子はわからなかった。

 私の予想は見事に外れたのだろうか?

 私は裕子がお金を受け取って直ぐに競馬場に走ると思っていた。

 たとえ使っても増やして返せば良いと考えると思っていた。

 しかし、今日であれから1か月、裕子が部屋を出た形跡はない。


 私は1か月ぶりに裕子の元を訪れていた。


「コンコンコン…」


 人の気配はするが中からの応答は無い。


「コンコンコン…裕子いるの?」


「はい…」


 ドアチェーンの隙間から裕子の瞳だけが姿を現した。

 その瞳にはクマが貼り眼光にはまったく力が無い。

 どんよりと曇った瞳はまるでゾンビの様だった。


「やっと来たか…」


 私の姿を確認すると、どこかほっとした様に安心した目をする。

 そしてドアチェーンは解除され扉が大きく開いた。

 そこに現れた裕子の姿に私は驚きを隠せなかった。


「こんなになるまでどうしたの⁈」


 瘦せこけた姿は以前のホームレス時代の比では無かった。まるで骸骨だ。

 今にも倒れそうなふらついた体を私は受け止めた。


「もう…ずーっと食ってない…」


 言わなくてもその状態を見れば一目瞭然だった。

 何も食べていないのはお金を守るために外に出なかったからなんだろう。


「お金を守ってくれたのね」


「ああ…当然だ…」


 力なくもたれ掛かる裕子の体は微かに震えていた。

 私はそんな裕子の体を強く抱きしめる。


 私の考えは浅はかだったのだ。裕子の人間性をはき違えていた。

 考え方は破天荒だが良い事と悪い事をちゃんと分別している。

 人のお金に手を付ける人間では無かった。


「金は約束どおり守ったぞ…」


 その顔は少し誇らしげだった。


「ええ…私、貴女に謝らなきゃ…」


「どうした…」


「私、貴女がこのお金に手を付けると思ってた」


「恩人のお金に手を出すほど私は落ちぶれていない…」


 裕子にとって私は恩人だったのだ。その言葉に何故だか涙が溢れていた。


「どうしたのだ…?」


 長い贅沢暮らしで私の方こそ人間的な感情を忘れていたのかも知れない。

 恩人と思ってくれている人間を全く信頼していなかったのだから。

 私は恩を受けるだけの事をしたつもりは無かった。

 しかし裕子はして貰った事にしっかり恩義を感じてくれていた。

 そしてそれを何かの形で返そうとしてくれていた。

 私は裕子の胸に縋り付き思い切り泣いた。

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