第13話 どの異世界にもツンデレはいる

「キミは賢いのかバカなのか。たまにとんでもないことを思いついたりやったりしてきますからねぇ。おかげでボクも楽しく――おおっと。刺激的な日々を過ごすことができている」


「結局僕で遊んでるんじゃないですか。隠しきれてないです」


「失敬♪」


 でもまぁ、命綱であるクリストフさんがそう思ってくれてるなら、いいか……


 となると、その信頼と興味に応えるだけの作戦を提案しなければならないわけで。


 僕は、隣で心配そうに耳を傾ける愛璃に視線をやって、席を外すように促した。


 ここから先は、全部、僕が決めて僕がすることだ。

 愛璃は関係ない。


(クリストフさんは、『元を断たねば意味がない』って暗に言いに来たんだよな……)


 僕は、王家に延々と追われ続けるのを回避する方法を思考する。


 革命? それは悪手だ。結果はどうあれ、僕らのためにたくさんの人が死ぬ。

 人が死ねば恨みは積もる。

 それを背負い続けるようでは、現状と何も変わらない。


 今の王家は強権的で最低最悪。困っている人も多い。

 となると、内側から崩す……?


 知覚できない毒を身体に染み込ませるように、内部から体制を変えていくしかないのか……?


「クリストフさん。ちなみに、王家に潜入している関係組員はどの程度の数が? もしくは、癒着している重役でもいいです」


「!」


「無理に国家を転覆させようとしても、民が苦しむだけ。だったら僕らは『悪い人たち』のまま、裏で糸引く方がいい。そうでしょう?」


「ええ、ええ。よくおわかりで。キミやシアノくんはともかく、ボクらのような人間は元来、そういう日の当たるところでは生きていけない性根の人間が多いもの。正義のヒーローなんて柄じゃないです。離反者も出る。それは困る」


「じゃあ、乗っ取りましょう」


「そうしましょう♪」


 僕らのことを王家が追うなら、乗っ取ろう。

 そうすればもう、逃げなくていい。


 うまく話がまとまったところで、僕はふとクリストフさんに尋ねた。


「ねぇクリストフさん。今、何歳ですか?」


「は? どうしたんです、急に」


「いいから」


「表向きの身分証はともかく、一応、今年で二十一歳ですけど……」


(七歳差か……雰囲気的には『いいお兄さん』って感じかな……?)


 「それに何の意味が?」とでも言いたげな眼差しに、僕は告げる。


「クリストフさんて、シアノさんのこと好きでしょう?」


「は????」


 きょとーん……と固まる菫色の瞳に、僕は吹き出しそうになる。


 ああ、やっぱり。

 小さな頃から組の跡取りとして育ってきたんだ、そういう感情に疎いのはしょうがないよなぁ。


「だって、そうでもしなきゃ、潰れかけたひとりぼっちの組を吸収しようだなんて思わないでしょう? 放っておいても、アーティ組の取引先も伝手を辿ってあなたに辿り着いたはずだ。契約書なんてなくてもね。まさか、無意識?」


「いや……言っている意味がわかりませんけど……」


「だから、シアノちゃんが好きなんでしょう? あなたは、アレだ。好きな子にイジワルしたくなるタイプ」


「ちがいますよばか」


「あーっ。図星?」


 にまにまとする僕に、クリストフさんは眉間をおさえてため息を吐く。


「ボクこう見えて、気に入った女はすぐに口説いて抱くタイプです。幸い顔も母譲りの美形ですし? まぁ、身体弱いところまで似なくてもよったのになぁとは思いますけど。顔がいいのは便利ですよ。取引のときでも、なんでもね」


「あ。誤魔化した」


「ちがいますばか」


 クリストフさんは殊更深いため息を吐いて、僕を見る。


「シアノくんとは腐れ縁。それ以上でも以下でもないです。それに、シアノくんが好きなのは、今でもずっと……」


「?」


「言うかばか」


 つーん、とそっぽを向いて、クリストフさんは去ってしまった。


 次に会うときは、取り入れそうな王家の重役を紹介してくれるらしい。

 そいつを辿って、僕らは根を張るように王家をじわじわと浸食していく……

 そういう算段だ。


 僕は、異世界にきてから学んだ。


 ――うん。

 チートがなくても。案外うまくやれるもんだな。


 あと、恋心とツンデレは、どの世界にもいるんだなぁって。

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