第14話

「何か申し開きは?」


「良いプレゼントだっただろう?嬉しかったら私に抱き着いても良いんだぞ」


 そういって姉さんは両手を開き、さあ飛び込んでこいと待ち構えている。


「ただの高校生の家にこんな高い物ばっかり送らないで」


「駄目なのか?」


「限度があります」


 そう、姉さんが持ってきた段ボールは全て高級品だったのだ。


 別に高級品を送るなというわけではない。世のおばあちゃんとかが孫の一人暮らしだからと張り切ってしまって良い物を送ったってのはよくある話だからね。


 でも、それはあくまで普通の品と比べて高いとかで済む話で、倍くらいの値段とかで収まるのが基本である。


 しかし、この人が持ってきた物は見ただけでも分かる最高級品の類である。


 例を一つ上げると、1つ目に入っていたレトルトカレー。お値段なんと一人前で2千円オーバー。


 このレベル以上の品が段ボール5箱に大量に詰め込まれている。


 全部の相場は分からないが、累計で数百万は固いだろう。


「限度?」


 しかし目の前に居る姉さんは何のことなのか分かっていないご様子。


「ただの仕送りに金をかけすぎ!もっと自分のお金を大事にして!」


「私は必要だと思ったものには全力で金をつぎ込む主義なんだ。ちゃんと使いどころは理解している。それに金はいくらでもあるからな」


 そう言ってさらっと暗証番号のメモと共に通帳を渡そうとしてきた。


 当然ながらしっかりとお断りした。


 俺たちの親は同じ筈なのに、どうして姉さんはここまで金を持っているのか。


 理由は簡単で、姉さんが自力で荒稼ぎしまくっているからだ。


 その手段は株のデイトレード。


 なんか話によると、高1の時から毎日全財産の9割を突っ込んで1日1%ずつ資金を増やし続けてきたらしい。


 高校生から始めたらしいから元手は大した事無いだろうが、そのペースを維持すると1年当たり30倍くらいに増えるらしいので、株を始めてから6年程経っている今天文学的数値になっていることは想像に難くない。


 今の総資産はいくらなのかと聞いたら答えてくれるだろうが、俺は怖すぎて聞けない。


 そもそもそんな芸当が人間に可能なのか?という疑問が出会った当初はあったのだが、この人は俺レベルでは比べ物にならないレベルの完璧超人だった。


 スポーツをすれば一瞬でオリンピックレベルに到達し、勉学に励めば1週間でノーベル賞受賞並みの成果を出して帰ってきた。正直出来ない事を探す事の方が難しい。


「弟は姉の愛を受け入れるものだろう」


「愛が大きすぎるよ。そんなにお金を渡したいんなら両親に渡してあげてよ」


 いくら姉さんにとっては大した事が無かったとしても、俺にとっては余りにも規模が大きすぎるんだよ。


「あの二人は受け取らないだろ」


「それはそうだけど」


 どんな金額であろうと、自分で稼いだお金なんだから自分の好きなように使いなさいって突き返されるのが目に見えている。


「加えて、あの二人にいくら金を渡した所で一生働き続けるだろうから意味が無い」


「確かに」


 じゃなきゃ新婚なのにお互い一緒の家に住まずに全国を飛び回っているわけがないもんね。


「って待って姉さん。じゃあ俺に一生分のお金があれば働かなくなるって思ってるわけ?」


 俺にお金を渡そうとするってことはよくよく考えるとそういうことだよね。


「違うのか?」


「それは違わないけど」


 俺が就職して外で働く理由は、将来結婚するどこかの姉に頼りっきりという歪な状態にならない為。いわゆるヒモ回避の側面が強い。


 でも、俺が十分な資産を持っていた場合その必要は無くなる。


 まあ出会いの為に社会に出ている必要があるから働くとかはあるだろうが、そこら辺は計算から外すとして。



 十分な金があれば働かない可能性が高いのは事実。


「なら受け取ってくれ」


「いや、受け取らないからね」


 ここで姉さんからお金を受け取った場合、将来結婚するかもしれないお姉さんのヒモにはならないかもしれない。


 だけどこの京姉さんのヒモである。


 どう考えても本末転倒だろうが。


「それは残念だ……」


 お金を受け取ってもらえない事で悲しそうな表情をする姉さん。


「どうしてそこまでお金を受け取って欲しいのさ」


 弟に対する愛は十分に伝わっているからお金とか物は必要ないってのにさ。


「高校を卒業し、大学を卒業した暁には私と同じ家に住み、二人で一生を過ごしたいからだ」


「えっう……こわっ……」


 心の底から湧き上がる嬉しいという感情を全力で押さえ、否定の言葉を振り絞って出した。


 いやなにその最高の人生設計。最高に素晴らしいじゃないですか。


「実はその前段階として、私からお金を受け取るハードルを下げていこうと思っていたんだ。最初は500万位から始めて、次は5000万、5億、50億っていう風にな」


「ええ……」


 余りにも完璧な計画過ぎる。姉さんが義姉じゃなかったら一瞬で落ちてましたとも。何なら義姉だけどもう落とされてしまいそうですよ。


「そこまでいけばもう私無しで生きていくのは困難だろうからな。一生働かずに二人で一生を終えよう、でイチコロなはずだ」


 でしょうね。そんな事されたら普通一生ついていくよ。


「その計画を言っちゃったら意味なくない?」


「最初の段階で頓挫してしまったからな。流石私の弟だ」


「血は繋がってないから関係ないけどね」


「私の弟になった時点で血の繋がりなんて関係ない。同じ家族だ」


「良い事は言ってるけど、さっきのセリフは全く意味合いが違うからね」


 姉さんの背中を見始めてまだ2カ月なんだよ。まだ中学の時の担任とかの背中の方が見ている期間は長いよ。


「まあいい。徐々に距離を縮めていけばいいんだから」


 完全に話が通じていないけど、姉弟だし関係が良くなっていくならいっか。

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