第42話 待ち人の来訪と初会談

 イントル(元本体)が念願の肉体を得られて俺に会いに来たって事で、アオちゃんを伝って接触して来たんだなと思っていたから、普通に応接室とかで会うものだと考えていたんだけど、どうやら違ったようだ。


 俺が連れられて行った先は、あまり使われているのを見た事がなかった広間兼謁見室とでも言うべき大袈裟に装飾された部屋で、何やら警備員とか女中さんとかが大勢、この場に立ち会っている。


 オイオイ、何だか俺の思ってたのと違って、政府の高官とかが態々わざわざ会いに来たって風なんだけど、本当にイントルが会いに来たって事で合ってるんだよな?

 なんか、状況が良く分かってもいない幼児は、全くお呼びではないですよって感じに、周りにいる大人に不審げに見られてるんだけど、ここで俺がこの場に出て行ってもなんら問題ないんだよな?

 何だか凄く不安になってきたぞ。


 広間の壇上横の出入り口から、部屋の中の様子を大人の足の陰からチラ見すると、制服っぽい揃いの服を着込んだ若者達が、見た感じ四十人程だろうか綺麗に整列して立っている。

 人種について見れば、それぞれが有機型アンドロイドに現れる形態を宿している様子だが、中でもエルフ耳の者が若干多めな様だ。

 全員が女性で、列の前方にいる三人だけが二十歳以上三十歳以下に見える容貌で、他は成人したばかりの生き生きとした若者風だ。


 列の先頭に一人立つエルフ耳の女性が、多分イントル(元本体)だろう。

 彼女の容姿が、俺の前世のアイに何処か似ていたからな。

 けれど前世の俺と大きく違っている所もあって、それが燃える火の様な色と形の髪型だ。

 この容姿については、イントルがわざと選んだに違いない。


 彼女達は全員が前方だけを向き、微動だにしていない体勢で立っているのを見るに、なんか軍隊のような規律に従っている風の者達だが、コイツ等はイントルが何処からかで雇って来たって事で良いのか?

 今の段階では全く判断などは出来ないから、もうちょっと様子を見ていよう。


 俺がジロジロと観察していたのに気が付いたのか、暫定イントルが視線だけ動かしてこっちを見た後、口の端をニヤッと吊り上げて笑いやがった。

 その所作を見て俺は確信した。

 ああ、コイツはイントルで間違いないなって。


 だけど、なんでこの人数を連れて、俺に会いに来たんだ?

 別に一人で来ていても、俺達に会えるようにアオちゃんには、事前に話を通してあったんだけどな。

 アオちゃんの方についても、俺が紹介したい奴がいると話したら多少は興味を持ってくれていたのに、折角の好感触だった雰囲気を無駄にはして欲しくないぞ。


 俺がそんな風に考えていた時に、急に上から声が掛けられた。


「そんなへっぴり腰をしていて、一体どうしたんだい? 」


 その声にビクッと驚いた俺の身体を、ひょいっと片手で掬い上げて来た者がいた。

 もう三歳にもなって、更に上手い飯を毎日食っているお陰で順調に育ってきていて、それなりの重量がある俺を楽々にである。

 まあ大方の予想通りだろうが、アオちゃんだけれども。


 アオちゃんがリハビリを始めてから既に一年が経過しており、その身体の快復速度はとどまる事を知らず、最近ではウェイトトレーニングにも凝っていて、全身の筋肉の醸成に余念が無い様子だったりする。


 その研鑽のお陰か、寝たきりだった頃には垂れていた頬の皮も、ヒアルロン酸を注射したのかと疑う程に瑞々みずみずしく張りが良くなり、だらしなくなっていた下っ腹もスッキリと引っ込み、尻肉もパンツルックの上からでも分かる程のプリケツをしている。

 どう見ても五、六十歳の健康なオバサンにしか見えないが、実際は百歳近くなんだから何処からも需要なんか無いってのに。


 あー、アオちゃん?

 あなたはその歳になってもなお、一体何処に向かっているのですか?

 結構な老人に向かって言うことでは無いのかも知れませんが、あなたのママとしては凄く心配です……。


 まあ、その事は取り敢えず置いといて、彼女の疑問に素直に答えておくか。


「ちょっと思ってた展開と違ってて、面食らっていた所だよ……。 」


 俺の弱腰な返答を聞いて、彼女はチラッと部屋の中を覗くと、俄然興味が沸いてきたといった様子だ。


「ほう、成る程ねぇ。

 随分と面白そうな相手だことよな。

 さて、アレがどれ程の者なのか、早速拝見させて貰うとしようかね。

 さあ、行くよ。 」


 アオちゃんが周りにいる大人達に簡単な合図をすると、部屋の入り口近くにいた女中さんと警備員達が、ゾロゾロと列をなして入室して行った。

 そして壇上にある立派な椅子の脇に、左右に分かれて立ち並んだ。


 なんか、アレだね。

 こういうのって、大体が国の大臣なんかの役職とか、会社の重役とかの様な人達がする行動だよね?

 今まで俺が勝手に女中さんとか警備員とか呼んでた大人達ってば、実はこの家の家系内でもお偉いさんな人達だったって事ですかね?


 ……。


 …………。


 ………………。


 しょ、仕様しょうがないんじゃあ!

 俺んちは、アオちゃんの孫の代で分家した下っ端の方の家なもんで、直系の人達とは全然交流とかも無く、知り合う機会なんか皆無なんじゃあ!


 それでも一年近く同じ屋敷に住んでいれば、多少は見慣れていたり名前位覚えていて、いい加減自分との間柄なんかを把握していても良いだろうと思うかも知れないが、到底無理だったんだよ!


 なんでかって?


 多いんだよ!

 屋敷にいる人数が常に異様に多くて、更にドンドンと仕事をしてる人が入れ替わっていって、全然憶えきれないんだよ!


 これが大人同士なら、なんかの電子機器を使った身分証的な物でお互いを確認し合っているんだろうけれど、俺達兄妹の様な子供には壊されるのを危惧してか、そんな高機能品は未だに配られてもいないんだよ!


「アオ様、ご入場! 」


 俺が一人で脳内で言い訳を繰り広げている間に場が整っていたのか、アオちゃんが部屋に入る段になっていた。 俺を抱えたままね。


 スタスタと元気良く、にこやかに部屋に入っていくアオちゃん。

 脇にダランと抱えられている俺。


 すると、居並んでいたイントル集団が、サッと片膝立ちにひざまづいて、頭を下げた。

 それを横目で見ながらアオちゃんが颯爽と椅子に座ると、俺を肘掛けの上にちょこんと座らせた。


 そして、イントル達に向かって言う。


「面をお上げなさいな、お嬢ちゃん達。 」


 それに対して、イントルだけが顔を上げて返答を行った。


「はい。

 お目通りして頂き、誠に有り難うございます。 」


 ここから、二人の初会談が始まる事になるのだった。






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