ドキドキの初撮影会

「ふふんふんふ~ん……モモさん、スタジオ入りま~す!!」


 鼻歌を歌いながら、軽い足取りで寝室にあるベッドの前まで進むモモ。

 そんな彼女を呆れた様子で見つめるライオは、深々とため息をついてから言う。


「あのさ……その一人芝居、必要ある?」


「うん? いいじゃん、それっぽくて気合入るでしょ? こういうのは形から入らないとさ!」


「形、ねえ……?」


 ははっ、と乾いた笑いをあげながら、ライオが見慣れた寝室を見回す。

 殺風景で、質素で、水着姿の女性が似合うような開放感の欠片もない狭い部屋こそが最もグラビア撮影とかけ離れているじゃあないかと、そうツッコもうとした彼は、そこでモモの動きを見て息を飲む。


 自分が貸した白いシャツの裾に手をかけ、ゆっくりとそれを脱いでいくモモ。

 引き締まったウエスト、オレンジ色のビキニに包まれた大きな胸、きめ細やかな白い肌。

 それを順番に曝け出して水着姿になった彼女は、丁寧に服を畳んだ後でベッドへと乗ってから、ライオへと微笑みかけてきた。


「……準備、できました。それで、どんなポーズをご所望ですか?」


「え? ええっとぉ……?」


 突然、どんなポーズを撮影するかを問われたライオがわかりやすく狼狽すると共に視線を泳がせる。

 くすくすと笑ったモモは、そんな彼へとからかいの言葉を投げかけた。


「ほら、だからさっき聞いたのに。私のおっぱいとお尻、どっちが好きなのって……その答えが出てれば、ポーズも決めやすかったのにさ」


「ど、どういうこと?」


「う~んとねえ……例えばほら、こんな感じ」


 ベッドの上に両手と両膝をつき、背中を反らした前傾姿勢になった彼女は、その体勢のままライオの方を見ると、誘うような眼差しを向けながら口を開いた。


「じゃっじゃ~んっ! こちら、女豹のポーズとなっておりま~す!! どう? セクシーでしょ?」


「う、うん、まあ……」


 またしても知らないポーズを見せてきたモモの言葉に、緊張を覚えながら応えるライオ。

 女豹のポーズなる四つん這いに近しい格好を取る彼女を真横から見ると、胸と尻の膨らみがよくわかる。

 背中の反りもまた美しく、体の柔軟さをアピールしながらも女性としてのセクシーさも強調するモモの姿に息を飲む彼であったが、こんなものはまだまだ序の口であるようだ。


「ほいほ~い! それじゃあ今度は私を前から見てもらえるかな?」


「え? わ、わかったよ」


 モモの指示にきょとんとしつつも、それに従うライオはカメラを持ったまま彼女の前方向へと移動した。

 それに合わせて体勢を微調整した彼女は、ほぼ同じポーズでありながらもまた違った姿を彼へと見せつける。


「……どう? さっきよりもちょっと危ない感じになったでしょ?」


「……!?」


 顔を上げたことで開いたスペースにある、モモの大きな胸の膨らみ。

 真正面ではなく斜め前から見ているお陰でサイズも強調されているが、やはり一番目を引く要素となっているのは胸の谷間だ。

 それに合わせてモモも表情やや目を細めた野性味のあるものへと変えており、そのお陰もあってかライオは彼女から今にも飛び掛かってきそうなワイルドな雰囲気を纏っているように思えていた。


「ふふふ……! じゃあ、今度は逆側。お尻の方に回ってみて」


 続く指示にも従ったライオが逆側へと移動してみれば、またしてもモモは体勢を微調整してこれまでとは違った姿を彼へと見せつけてみせた。


 今度は先ほどとは逆に体勢を低くし、四つん這いに近しいポーズを取った彼女は、恥ずかしそうに微笑みながら振り向き、尻と笑顔でライオの心を鷲掴みにする。

 今までが堂々としていた分、その恥ずかしそうな笑みとのギャップが強調されているように思った彼が込み上げる感情に言葉を失う中、楽しそうに笑うモモが得意気に声をかけてきた。


「どう? お尻だけじゃなくて太腿も綺麗でセクシーに写るでしょ? 前から撮る時はそっちとは逆でおっぱいと腕、指に気を付けなきゃいけないし、顔が近い分表情にも気を配らなきゃいけないんだよね」


「なんか、すごいね……! ほぼ全部同じ体勢なのに、見せ方次第でこんなにも雰囲気が変わるんだ」


「そうだよ。だからライオが魅力的だと思ったり、見たいと思った私の姿を教えてほしいの。まず誰よりも撮る人間がこれがいい! って思わない写真なんて、何の価値もないでしょう?」


 ドクン、と心臓が跳ねる音が体の内側で響いた。

 モモの言葉に衝撃を受けたライオが、口元を覆いながら小さく頷く。


 てっきり彼女は自分に逆セクハラを仕掛けているだけだと思っていたが、本当に仕事上必要な質問だったなんて……と、先の質問に重大な意味があったことを理解したライオは、自身の勝手な思い込みを恥じた。

 自分の肌を晒すからこそ、その一つ一つに全力を投じ、最高の姿を残してほしいのだと……モモが抱くグラビアアイドルとしての想いを感じ取った彼は、同時にこれがただの写真撮影ではないということを肌で感じ始める。


 仕事……そう、仕事だ。

 それを見る者全てを魅了するような綺麗で美しくセクシーな女性の姿を写真を撮ることに熱意を注ぐ撮影会は紛れもなく立派な仕事であると、それもまたモモの振る舞いを見て理解したライオは、思っていた以上に責任重大なカメラマンの役目に今までとは別の緊張を覚え始めた。

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