セクシーポーズは童貞には刺激が強過ぎる

「ぐら……? なんだって?」


「グラビアアイドル! ああ、そっか。こっちの世界では聞き馴染みがないか」


 グラビアアイドル、という聞いたことのない職業に対して、首を傾げるライオ。

 モモの世界では一般的なのだろうが、こちらの世界では存在すらしていないであろうその仕事の内容は、彼にはさっぱり見当がつかない。


「ごめん、僕にはその仕事がどんなものなのか全くわからないや。よければグラビアアイドルについて、教えてくれないかな?」


「もちろんいいよ! ええっとねえ……うん、実際に見てもらった方が早いと思うから、実演するね!」


 ライオのお願いを二つ返事で了承したモモが、もぞもぞと動きを見せ始める。

 いったい何をするんだと、自分に何を見せようとしているのかと困惑するライオの前で、彼女は扇情的なポーズを取ってみせた。


「えへへ……どう? こんな感じだよ」


「ぶっ……!?」


 ごろんと床に寝転び、顔をこちらに向けた状態で、両腕を使って胸を持ち上げるモモ。

 体に巻かれたシーツでは隠し切れていないが強調されると共に、どこか蠱惑的な笑みを浮かべた彼女の姿を目にしたライオの心臓が早鐘を打ち始める。


 今にもこぼれてしまいそうなくらいにあふれている胸と、優しさと美しさを併せ持ちながらも性的な魅力を感じさせる笑みを浮かべるモモは、ライオの言葉では上手く表現できない異質な雰囲気を放っていた。


「なっ、何をしてるの!? そんな破廉恥な格好になって……や、止めなよ!!」


「いやいや、これがグラビアアイドルの仕事ってやつなんだよ。まあ、足りないものも多いけど、こういうポーズを取って、写真を撮影してもらうお仕事ってこと!」


「は、はあっ!? そういうポーズを取る、仕事……!?」


 にわかには信じがたいその仕事内容に、素っ頓狂な叫びをあげて驚くライオ。

 という言葉の意味はわからないが、モモがこういう格好で男を誘うような姿勢を取ることは間違いないと理解した彼へと、普通に座り直したモモが言う。


「衣装も色々あるけど、一番多いのは水着かな? 学生服とかかわいい普段着とか、コスプレチックなものを着ることもあるけど、やっぱりグラドルっていったら水着だと思う! それで、今みたいなポーズを取って、写真撮影……まあ、すごくリアルな絵を描いてもらうみたいな感じかな? そういう写真を雑誌に載せてもらったり、一冊の本として出版してもらうことで収入を得る、っていうのがグラビアアイドルって仕事だよ!」


「つ、つまり、モモは……いやらしい写真を売って生計を立てていた、ってこと!?」


「ちょっと! 言い方を考えてよ! そこはセクシーって言って!!」


 モモの抗議も耳に入らないくらいに動揺しているライオが、唖然とした表情を浮かべたまま彼女を見つめる。

 まさか、そんな、モモが男性たちの色欲を糧に生きてきただなんて……とショックを受ける彼に対して、モモは再び胸を張るとこう言ってのけた。


「というわけでなんだけど……私、こっちの世界でもグラビアアイドルやるつもりだから、そこんところよろしくね! いや~、芸は身を助くってこのことですな~! あっはっはっはっは!」


「は、はいぃ……?」


 衝撃的なその宣言は、ライオを更に動揺させた。

 世の男性たちの性欲を刺激することで賃金を得るグラビアアイドルの仕事をこの世界でもやるというモモの言葉に、ライオは若干の戦慄を覚えながら彼女を見やる。


(さ、サキュバスだ……! モモはサキュバスなんだ……!!)


 男性の精気を糧に生きる悪魔、サキュバス。

 ライオの目にはモモの姿が神の敵である夢魔に見えていた。


 これは良くないと、今からでも彼女を家から放り出そうとしたライオであったが、真剣な表情を浮かべたモモがぼそりと呟いた感謝の言葉を耳にした瞬間、その思いが霧散してしまった。


「……本当にありがとう。ライオが私に乱暴しない男の人でよかった……!」


「うっ……!」


 純粋に、心の底から、ライオが誠実で心優しい男性であったことを喜ぶモモは、彼に強い恩義を感じているようだ。

 この状況で、やっぱり信用できないから出ていってくれと言う勇気が彼にあるはずもなく……ライオは口にしかけた言葉を飲み込んでしまう。


「さ~て、そうと決まったら私も行動しなくちゃ! 一刻も早く独立するために、頑張るぞ~っ!!」


「あっ……!!」


 そう決意表明をしたモモは、足早にリビングを出て寝室へと行ってしまった。

 なんだか想像以上に厄介な爆弾を抱えてしまったのではないかと思いながらも、こうなってしまった以上は腹をくくるしかないと覚悟を決めたライオは、抱えている不安を吐き出すようなため息をこぼしてから一人呟く。


「ほ、本当に大丈夫かなぁ……?」


 こうして、女性への免疫が皆無といっていいレベルの修道士と元グラビアアイドルという経歴を持つ異世界人の異色コンビによる、波乱の同居生活が幕を開けるのであった。




※教訓・何でもかんでも安請け合いをしてはいけない

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