第20話 親友は王妃様候補

 「お前、王太子の嫁になれ‼」 

 やったぁ‼

 まさかこんなに早く見つかるなんて思わなかった。

 イオが王妃様候補を探して、10日ほどだ。

 偶然見つかった理想の少女は、なんと前世の親友だった。

 吉永美雨。理知的でおとなしい、穏やかな少女だった。

 ミウなら自信をもってハルトに推せるし、ミウにも、王太子なだけでなくなかなかの実力者で人格者のハルトなら、推せる。

 気分は『友人の紹介』だ。

 いかにもJKっぽい展開に勝手に盛り上がるイオ。

 しかしこういう場合、男はひたすら単純に浮かれるものだが、女は妙に冷めていく。

 「待った、糸。とりあえずちゃんと説明して。」

 冷静な発言だが、テンションの違いに気づかないイオは、勢い込んで語り出す。

 「わかった、ミウ‼あのさ、藤原氏って知ってる?」

 ……

 河合糸の成績は下から数えて輝かしい1桁順位、吉永美雨は上から数えて10位以内のトップランカーだった。

 「知ってるよ。平安時代、藤原家の一族が天皇に娘を嫁がせ、皇子を授かることで外戚関係を結び、摂政、関白なんかの役職を独占、政治的実権を握った歴史上の事実ね。有名どころは藤原道長とか。娘は彰子、ね」

 さらさらと答えられ、目を逸らすのはイオの方だ。

 彼はふわっとした知識のみで、ここまでは知らなかったのだ。

 「ま、今からミウはオレの妹‼」

 「……同い年なのに?」

 「細かいことはいいから‼で、ミウが王太子の嫁になればオレは親戚‼で‼」

 「で?」

 「オレは王宮に住むんだ、左うちわで‼」

 ……

 うん、さすが、糸。

 単純で強引。

 ただこの後30分1本勝負で。

 王宮がいかに素晴らしいか語りつくされ、諦めたのはミウだった。


 この世界で5年とは言え、下っ端貴族だったミウだ。

 この世界の婚姻、家が全てで、個人の意思は介在しない。

 特に立場が上であるほど。

 だからこそ、騎士爵の両親は見目形の良い娘に期待し、魔力なしなら情け容赦なく捨てる、そんな真似ができたわけだが。

 「ここに、私の気持ちはないんだよなぁ……」

 本音のつぶやきも、小さすぎて届かない。

 イオは糸だが、糸ではない。

 少年として生きた6年間が河合糸を変え始めている。

 本人だけは気付いていないが……

 『元JKの少年』を、『女の子の事を理解できる少年』を経て、『少年そのもの』に変え始めていた。

 そう言う意味では、

 『候補1はミウだから、あと何人か保険を』とか、言い出さないだけまだましなのだ。

 諦めた。

 ただどうしようもなく無理な話で、

 「でも、どうやって嫁になんてなるのよ。私、無能力だよ」と、ため息交じりに言ったミウに、

 「へへ、それが『魔力の器』だよ」と、ピースサインをして見せる。

 少年は説明を始めた。

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