第17話 血まみれの天使(♂)と男装の天使(♀)

 突然現れた少年は、ゾッとする程美しかった。

 この世界の人にしては珍しい、短髪のツンツン頭だが、アルミの輝きを思わせる銀髪だ。宝石のように深く蒼い目。整った顔立ち。

 同い年くらいなのに色気すら感じる、超ド級の美少年だった。

 なのに?

 何故だろう、体が震えるくらい、怖い。

 「ごめん、サチさん。少し離れてて」と、言った。

 オルトに両断されかかった、私の心の姉を助けた。

 「オレの因縁に巻き込んだ」、とも。

 少なくともこの恐怖の体現者は、私達の味方らしいことが救いだった。

 「オレはお前らみたいなクズは嫌いだ」と言って、少年が取り囲むスラムのならず者達に本気の殺意を叩きつける。

 怖い‼

 怖い‼

 怖い‼

 直接殺意を向けられていない、横で見ているだけなのに全身が震える。

 サチも、2人も顔色がない。

 睨みつけられているならず者達はひとたまりもなかった。

 「うわぁぁぁっ‼」

 「助けてくれ‼」

 「許してくれ‼」と叫びながら、恐怖のあまり失禁し、意識を失う。

 1人だけ残った男は、アランとか言う、このスラムの元締めだった。

 「完全な無能力はお前だけか」と、少年が言った。

 ん?

 無能力?

 この世界で『能力』と言えば魔法の事で、なら私も無能力だ。

 無能力だと怖さすら気づけないの?

 私は怖いけど、なんで?

 ただその疑問は、続く更なる恐怖の展開に吹っ飛んでしまう。

 「うぎゃぁぁぁっ‼」

 少年が、アランの手首を切り落とした。膝も踏みつけ砕いてしまう。

 おぞましい、拷問じみた攻撃にゾッとしたが、

 「足もお揃いにするか?」

 とか、

 「もう片方も折っておくか?」とか、挑発的な、サディスティックな言い方に既視感を覚える。

 誰かに似ている。

 いい子なんだけど時々キツイと言うか、いや、優しい子なんだよ‼

 ただ言い回しがキツイ時がある、たぶん根っこはサドなんだろうな、前世の親友の言い回しに酷似して。

 「‼」

 妙な予感に心臓が痛い。

 続いて少年が叫んだセリフ、

 「必死に生きる女を食い物にするなら赦さない‼」で、確信に変わった。

 こんなの絶対、少年のセリフじゃない。

 5、6歳の子には言えない。

 だいぶ女性寄りで、ませたセリフにハッとなる。

 心が壊れかけていたから、俯き加減に過ごしていた。

 顔をパッと上げると、

 「‼」

 ならず者達を撃退し、私達に歩み寄ろうとした銀髪の少年と目が合う。

 ……

 この感覚は、説明が難しい。

 懐かしさと共に、共通の根っこを感じた。

 この世界の神ではない。

 何者かは分からない、同じ大きなものに抱えられている感じ。

 結びつきを強く感じる。

 「糸?」

 思わず出た名前に、少年も返す。

 「美雨?」

 と。


 2人、ついに巡り合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る