第3話 オーガを屠る

 イオの中の糸が表に出て……


 記憶は混乱していない。

 イオの6年と、糸として生きた前世の16年が混在するが、絡まってはいない。


 糸は学校から駅へと向かう、雨の降った帰り道、歩道に突っ込んできた暴走車にひかれた。

 その記憶が最後だから、多分死んだのだろう。

 横を歩いていた友人、吉永美雨(ヨシナガミウ)は大丈夫だろうか?


 わからないが、とにかくオーガだ。

 やっつけないと続かない。

 JKなめんな、と糸は思う。

 よく言う、魔法はイメージ、ならば?


 まずは体を治そうと思う。

 イオは、火をつけたり水を出す、生活魔法程度しか使えなかった。

 けれど、彼には前代未聞の魔力ポテンシャルがある。

 治るように、正確にイメージして……

 諦める。

 そんな、完全に人体の構造などわかるわけないじゃん。

 勉強は苦手だった。 

 JKなめんな‼

 だから糸は、5分程度前のケガをしていない自分をイメージし……


 瞬間体が強く光る。

 これをヒールと言っていいのか?

 完璧に治った。

 バキバキに折れていた右腕が戻り、足の痛みがなくなる。

 腹部の傷が消え、体の中心から何かが逃げていく感覚が無くなる。

 おそらく内臓ごと治ったのだ。

 

 よし、これなら。


 突進してきたオーガを避けた。

 体を素早く動かすイメージをし、それが出来た。

 イオがうっすら覚えている属性にはない。

 身体強化、かもしれない。


 続いては火魔法を試す。

 ただの業火じゃ詰まらない。炎の剣をイメージした。

 治りたての右手を前に、その手の平から硬質な炎が出るイメージで。

 瞬間、炎の矢が発射され、オーガの喉を穿つ。

 矢と言うよりビームだ。

 安い特撮映画みたいに、オーガは喉を撃ち抜かれ絶命した。

 その場に倒れ動かなくなる。


 「勝ったぁ。」

 糸はほっと息を吐いた。

 苦戦でも何でもない、楽勝なのだが、糸は今やイオである。イオの最初の綱渡りっぷりに寒気がする。

 まったくよく生き残れたものだ。

 「うん。」

 両の手を握ったり閉じたり、膝を屈伸させ動きを確認。

 急に思いついて、オーガから1本爪を拝借。

 腹部を引き裂いた鋭い爪をカミソリ代わりに、糸は髪を短く……

 ほぼ坊主頭にしてしまう。


 これでおかしな趣味のヤツはある程度防げるだろう。

 伸ばしっぱなしだった髪の毛は、女の子的にはセミロングで、汚れてはいるがキラキラの銀髪だ。

 これも売り物になるかもしれない。

 糸……いや、今は男の子なのだ、イオで統一すべきかもしれない。

 イオは切り落とした髪の毛も拾い、絶命したオーガを担いで歩き出す。

 体重差10倍以上だが、魔力に目覚めたイオには雑作もない。


 足の間が今1つ慣れない。

 歩き辛いと思いつつ、イオは離れた町を目指した。

 1番の近隣の町は、彼が奴隷商を爆殺し、両親に捨てられ、司祭に悪魔呼ばわりされた故郷の町だ。

 ここまで強くなったら関係はないが……

 どちらにしろいい気分ではない。


 少年は新しい町に向かった。

 魔物は素材として売れることを知っている。

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