姫は笑い、狼は唇を貪る

@aoka20011

第1話

“異世界転生”


一度は夢見たことではないだろうか?今ある現世で生涯を終えたものがまた別の世界でその生涯を全うするというもの。


僕も一度は想像したものだ。新しい新天地、新しい家族、新しい友人。


中々に好奇心をくすぐられ、中学生のころはそれで小説も書いたくらいだ。



でも“異世界転移”はどうだろうか?



_______________________________________________





暖かい陽気に包まれ、僕は目覚めた。今日は高校の始業式がある。


窓を見ると満開の桜が視界を埋め尽くす。そうか、入学してからもう一年もたつのか···


「優っ!今日は早く出るじゃないの!」


「あ、すぐ下に行くよ!」


母さんに呼ばれ僕は慌てて支度をした。なにせ生徒会役員だから早めに学校に行かなくてはならない。



下に降りると父さんと母さんが既に朝ごはんの支度を終え待っていた。


「ごめんごめん、少し考えごとしてて···」


「はははっ、なんだ柄にもなく緊張してるのか?」


「い、いやそんなんじゃなくて」


「いいから早く食べましょ?二人とも遅刻するわよ。」


「はは、それもそうだなそれじゃ···」


‘いただきます!’




食事を終えた僕は急いで学校へ向かった。


桜の花が風で舞うのを見ながら歩いていると後ろから肩を叩かれた。


「やあ優、おはよう。」


「ん、明か。おはよう。それで今日は車じゃないのか?」


「何言ってるんだい?ここは校門前だよ。まだ寝ぼけているのかい?」


辺りを見渡すとたしかにここは校門の前だ。なんだか今日はよく物思いに耽ってしまう。


「まあそれよりも、生徒会の準備早く行こ?」


そう言い走り出す明。彼は大企業の社長の息子さんとしかわからない。でもとても話しやすく好感がもてるやつだ。


顔は中性的で、白い髪をよく後ろに束ねている。これだけ見るとなんだか


「女っぽい、よね明君?あ、それとおはよう優君!」


「うおっ!···なんだ朱里か。人の心を読まないでくれ。」


「えへへ。でもこないだ一緒に温泉行ったんでしょ?そして一緒に入った。男だったんでしょ?」


「あ、ああ春休み中に行ってきたよ。たしかに男だったよ。」


髪の毛は想像以上に長かったけどな。


「それよりもさ、生徒会大丈夫なの?明君先に行っちゃったけど?」


「あ、やべ!」


僕は急いで集合場所へと向かった。







始業式も終わり、なんとか仕事を果たすことが出来た僕は今教室にいた。しかし、今は放課後なので十人くらいの生徒しかいないが。


「えへへ、優くんと同じクラスだぁ!よろしくね優君?」


「やあ優、また同じクラスで嬉しいよ。よろしく頼むよ。」


元気いっぱいにはしゃぐ朱里と少し顔を赤らめる遠藤、いや明か。


こうして見ると二人ともすごく可愛く見える。朱里は赤い髪をなびかせその大きい胸を強調している。


明だってなんだかすごく可愛く見える。


「どうしたの優君?そ、そんな私達の顔をじっくり見て···」


「あ、す、すまん。なんか今日はよく考え込んでしまうみたいでな。」


「優?もしかして何か悩みでもあるのかい?」


「い、いやそんなじゃないよ。ただ僕たちが出会ったからもう一年も経つのかと思ったらさ、なんだが時の流れはあっという間だなって。」


「ふふ、何それ。なんだかお年寄りみたいだよ。でもたしかにもう一年なんだね。」


「そうだ、なら二人とも僕の会社が経営してるお店にこれから行かないかい?思い出話はそこでもできるだろう?」


「お、いいなそれ。」


「私も賛成!でもでも、安くしてよね!」


「はは、わかったよ。そう伝えておく。」


時計を見ると12時近くになっていた。周りをみても帰り支度をしているクラスメイトが沢山だ。


「じゃ、行こうか。」


「「おーっ!」」


すると突然あたり一面がまばゆく光りだす。


「うおっ!」


「な、なんだ一体!」


周りもパニックになってるみたいだ。僕もその場にしゃがみ、恐怖に怯えていた。





「おお、勇者召喚は成功したのか!」


「はい、そのようでございます我が王。」


年配者の声だろうか?目を開け正面を向くと二人の人が目にはいった。そして周りを見渡すと広い広場に広い天井。そして僕たちの周りにいる剣を持った騎士と思われる人々。


な、何かのドッキリだろうか。


「優君、大丈夫?立てる?」


「朱里···」


「優、僕の手に捕まって。」


なんとかその場から立ち上がることができたが状況がよくわからない。なんなんだこれは。それにこの場にいるのは何故か教室いた生徒だけ。


「おお勇者よ!突然の呼び出し大変失礼した。儂は第三十一代目イーストリア王国、国王である。」


こ、国王?何かの冗談じゃないか?それに勇者って···


「早速で悪いが君達にはこれを着けてもらいたい。」


そばにいた人がそう言うと、一人一人にブレスレットみたいなものが渡された。これを着ければいいのか?


「お、おいこのブレスレット一回着けたら外れないじゃないか!」


「ふざけるなんなんだこれ!」


「黙れ愚民が。」


すると反抗した二人がうなだれてしまった。な、何が起こったのだろうか。


「いいかお前たち?早くそのブレスレットをつけろ!反抗するものはこの場で処刑する。」


その瞬間、僕たちの周りを騎士たちが取り囲む。ほ、本当に殺されるのか?


「ちょっと待ってください!」


声を上げる明。彼はまだブレスレットをつけていないようだ。


「何故こんなことをするんですか!僕たちが何かしたとでも言うのですか!」


「ほう、威勢のいい小僧だ。お前にはもっといいものをやろう。」


すると明は周りの騎士たちに押さえつけられる。そして明に何かをつけようとしている。何だあれは?


「くっ、離せ!」


「おいお前たちすぐにこいつの首につけろ。見せしめにしてしまえ。」


「や、やめろ···」


そして明の首に首輪みたいなものが取り付けられる。そして次の瞬間、明が苦しみ始めた。


明の首がその場に落ちる。


血も出ることなく。


「いいかお前たち、早くブレスレットをつけろ!こいつみたいになりたくなければ!」


ふと足元に紙切れが落ちているのに気づいた。それを拾ったとき、不意に手を引かれた。


「優君、行くよ!」


「しゅ、朱里っ!?」


「な、何をしているお前たち!早く捕まえろ!」


必死に走る朱里に手を引かれながら僕は必死に走った。


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