第16話 ホワイトチョコレート

その夜、お店を閉めた私は新商品の作成にはげんでいた。前世でも作ったことはあるのでそこまで難しくはないはずだ。だけど、せっかく食べてもらうのだ。できる限り美味しく作りたい。



「リンネ、その真っ白いものはなんですか? 新しいお菓子でしょうか?」

「ああ、これはホワイトチョコレートというもので、カカオ豆の外皮をとりのぞいてつくったんです」

「え、これもチョコレートなんですか!?」



 通常のチョコレートと違い真っ白いチョコレートを見てジュデッカが驚愕の声を上げる。そう、私は今ホワイトチョコレートを作っているのである。

 ホワイトチョコレートはカカオに含まれている外皮などをとりのぞく必要があるが、そこまで大変なものでは無い。



「でも、また新製品を……? 果物入りのチョコレートも作っていましたよね。現状チョコレートを作れるのはリンネだけです。そこまで無理をしなくてもいいと思うのですが……」



 ジュデッカの心配ももっともである。お店で出す商品を増やせば増やすほど手間は増える。今はまだチョコレートでも物珍しいの話題性もあるし、ジュデッカやノエルが作れるようになってから新商品を展開しても問題はないだろう。

 だけど……



「私ね……このお店に来た人には笑顔で帰ってほしいんです。チョコレートを食べて、幸せな気分になってほしいんですよ」

「アリスですか……」

「はい……」



 あまり広くはない店内だ。私と彼女のやりとりが聞こえてしまったのだろう。ジュデッカは悔しそうに呻く。



「確かに、彼女が他人にどこか線を引いていたのは感じていました。でも、あんなに悩んでいたなんて……」

「アリスさんとジュデッカは昔からの付き合いなのでしょう? だったら言えないこともありますよ」



 そう、距離が近い人間には弱音を吐きにくい時もある。あまり接点のなかった私にだったからと、チョコレートを食べてリラックスしていたから、ぽろっと弱音を吐いてしまったのかもしれない。

 余計なお世話かもしれない。だけど、私は彼女の力になりたいと思ったのだ。



「そのホワイトチョコレートはアリスのためなんですよね……お気持ちは嬉しいです。でも、どうしてそこまで? あなたたちはそこまで仲良しというわけではなかったでしょう」

「そうですね……でも、私、このお店に来た人には笑顔になってほしんです。チョコレートを食べた人には幸せになってほしんですよ」



 自分の気持ちを笑顔で答えると、ジュデッカは驚いたように目を見開いた。私にとってチョコレートは幸せの象徴だった。食べるだけで嬉しい気持ちになるお菓子。仲直りをするときに食べるお菓子。私にとっては思い出がたっぷりあるお菓子なのだ。

 だから……せっかくチョコレートを食べた他の人にも幸せになってほしいのだ。チョコレートで幸せになってほしいのだ。



「リンネ……あなたは本当に優しい人ですね……」

「いえいえ、ただチョコレートが好きなだけですよ」

「その……夜遅くになると思いますし、私も付き合います。力仕事なら任せてください」



 何故か熱い感情が宿った瞳でジュデッカが私を見つて、肩に手を置いてくる。いつもよりも距離が近い気がする。まるで、そんなにホワイトチョコレートが食べたいのだろうか?

 きょとんとしていると申し訳なさそうにノエルが顔を出す。



「あの……私もいるんですが……ジュデッカ様、リンネ様を口説くのは二人っきりの時の方がよいかと……」

「あの……これはそういうのではなくてですね……」

「ノエルもこれの試食をしてくれるかしら?」



 なぜか慌てて私と距離を取るジュデッカに不思議に思いながらホワイトチョコレートを差し出すと、誰かが大きなため息をついた気がする。

 一体なんなのだろう。

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