第10話 血肉の宴

日本国 東京都港区 汐留駅近辺

2025年3月某日 未明




港から出発したキャラバンがワトソン重工の日本支社ビルに到着した。


ビルというより正に現代の城塞だった。高級タワーマンションの跡地上に建てられた、今存在している建築技術の最高峰と言っていいほど巨大で、尚且つ繊細な出来上り。わざわざ見学に来る建築マニアもいるぐらい、都内屈指の名物ビルになっていた。高層ビルより高い、スカイツリーや東京タワーより低いが、その二大建造物が迫力負けする外観だった。


多国籍企業ワトソン重工がそこに建ってあった高級タワーマンションを最高値で一人一人の所有者から買い取り、取り壊し、建てた東京湾の全方向から見える巨大ビルにした。


その巨大建造物の地下にある駐車場でキャラバンが停車し、トレーラーに乗っていた赤いコンテナから一人の中背中肉の中年男性が出て来た。肌のツヤや色は不自然に色が付いていて、見ている者には蝋人形のような印象を強烈に与える。その中年男性は卑屈な顔をしていて、目が赤く光っていた。着ている服はブランド物だが、乾いた血に染まっていて、強烈な死臭を放っていた。


男が地面に降りて、トレーラーの前に立った。護衛車両とリムジンに乗っていた全員すぐに床に膝ますく動作をし、頭を下げて、全員は一斉に声を上げた。


「改めて、日本へようこそ、我が主(マスター)。」


「頭をあげよ。」


と主(マスター)が言った。


全員が頭を上げて、自分たちの上にいる存在の顔を見た。


「小島よ、宴会場はどこだ?。」


と中年男性が聞いてきた。


「この地下駐車場より下にある、特別シェルターの中に行われる予定です、主(マスター)。」


と小島が答えた。


「我を案内しろ。」


と中年男性の姿をした何かが言った。


「仰せの通り、我が主(マスター)。」


と小島が答えた。


駐車場の奥にあった壁が開き、特別シェルター行きのエレベーターが現れた。そして全員が乗った。


ワトソン重工の日本支社の地下深く、核攻撃にも耐えられる巨大な特別シェルターがあった。


最上階にある表の役員室や支社長室はただの飾りカムフラージュであり、本当のビジネスのやり取り、裏表を問わず、この地下特別シェルターの中で行われていた。


その特別シェルターの巨大な宴会場で田森元総理が待っていた。彼の5人のセキュリティー要員とその隊長である加藤光太郎も居た。


ワトソン重工の日本支社の男性従業員30名は合衆国軍が正式採用している最新版のNGSWアサルトライフルを所持し、元総理が集めて来た150名の生贄を監視していた。老若男女問わず、皆恐怖な顔を浮かべていた。その生贄たちのほとんど若い家出人、身寄りのない人、不法滞在の健康そうな外国人、高級コールガール、姿を消したと言われていた一世風靡をした元芸能人やアイドル等々だった。


集められた人たち、全員はこれから行われる宴の主役ではなく、メインディッシュであった。


会場の入り口付近でエレベーターのドアが開いた音がなった。そして主マスターが入場した。


ワトソン重工の日本支社の従業員、老人とその護衛者たちが跪いて、頭を下げた。




「日本国へようこそ、大統領閣下。」


と田森元総理が言った。


「その名と肩書はとうの昔に捨てた、田森殿、我は主(マスター)である。」


と主(マスター)が返答した。


「大変失礼いたしました、我が主(マスター)。」


と老人が言った。


「よい、よい、頭を上げよ、我のための宴と入国の手引きを感謝する。」


と主(マスター)が老人に声をかけた。


「とんでもございません、我が主(マスター)、これはこの私めが唯一できる協力方法です。」


と老人が答えた。


「田森殿、この10年間が見事な働きだったと聞いたぞ。」


と主(マスター)が老人を労う言葉をかけた。


「とんでもございません、我が主(マスター)。」


と老人が謙遜した。


「その見事な働きっぷりには特別なご褒美をあげよう、貴殿は10年間、私の血を100倍薄めた血清を飲んでいたと聞く、宴の前に薄めてない我の血を飲ませてやろう、そして我のしもべ、我の右腕となるようにするぞ、喜べ田森殿。」


と中年男性が笑顔を浮かびながら老人に言った。


老人は考えた、これでやっと死から逃れることが出来る、これでやっと日本を世界の頂点にできる、強国にすることができる、神州にすることができると考えた。英霊たちが出来なかったことが自分は成し遂げることができると喜んだ。


「近くに寄るがよい、田森殿。」


と主(マスター)と呼ばれる中年男性が言った。


その中年男性が口を開いた、そしてその口が大きく裂けた、そこから2本の触手のような細長い舌が出て来た、そのうちの一本が先にある鋭い牙でもう1本の舌を切った。赤黒いドロドロとした血が流れた。そして蝋人形のような中年男性が老人に言った。


「垂れ落ちる前に血を舐めて、飲め。」


と命令した。


老人が蝋人形のような中年男性の言う通りにした。触手のような舌から血のしすくを数個飲んだ。


元総理、先生と呼ばれている老人がすぐに自分の体の変化に気づいた。


今までピンク色の液体を飲んだ後も、力が漲るのは感じていたが、今回はその比ではない、一気に


細胞が若返ることを感じた、視力、聴力も見る見るうちに強化された、筋力、腕力も若い時に以上に上がったことも感じた。そしてそれを感じたあと、今まで感じたことがない強烈な欲望を感じた。それは渇き(サースティ)だった。


老人は一気に見た目が50代前半になっていた。近くに立っていたセキュリティー要員とその長の加藤があ然とした目で見ていた。


「わが右腕の田森よ、お前の部下にもこの祝福を与えよう。」


と中年男性が強烈な声(テレパス)で元老人に伝えた。


「仰せの通り、我が主(マスター)。」


と元老人が答えた。


若返った元老人が加藤光太郎を含む6人を見た、全員が恐怖の顔を浮かべていた。


「動くな。」


と元老人が命令した。


元老人が口を開いた、そしてその口が裂けて、3本の触手のような舌が出て来た。加藤を含む3名のセキュリティー要員に刺して、血を吸い始めた。他の3人は逃げようとしたが、ワトソン重工の従業員にアサルトライフルを向けられ、逃げ場を失った。


加藤たちを吸い尽くした後、残りの3人を餌食にした。6人のうち、加藤を含む3名が立ち上がり、中年男性と元老人の前に跪いて、敬を表した。残りの3人は灰色の乾いた皮膚をした屍(アンデット)となった。蝋人形のような中年男性が近くに居た5人ワトソン重工の従業員に声(テレパス)で命じた。


「なり損ないを始末しろ。」


「仰せの通り、我が主(マスター)。」


と従業員が一斉に答えた。


3人のなり損ないが頭を撃たれ、床に倒れた。


主(マスター)と呼ばれる中年男性が声(テレパス)で会場にいる全員しもべに声をかけた。


「宴会開始だ、吸い尽くせ。」


と命令した。


主(マスター)と呼ばれる蝋人形のような中年男性の口から7本の触手(テンタクル)牙(ファング)が出て、若い10代高校生の女性、上品な雰囲気の美しい20代前半のコールガール、綺麗な顔をした60代の老婆、筋肉質の20代男性、死んだとされていた30代の長い黒髪の元女性歌手、自殺したと報道されていた元アイドル、10代前半の元男児子役を餌食にした。吸い尽くした後、舌で全員の首を折った。餌となった者を屍(アンデット)及びしもべにしない。転生した時のボリバルの悲劇で学んだからだ。また肉が無性に食べたくなったので元アイドルとコールガールの遺体を食べ始めた。


「吸い尽くした後、殺せ。」


と再度声(テレパス)を全員に送った。


「仰せの通り、我が主(マスター)。」


と全員声に出して答えた。


その場にいる蝋人形のような死臭がする中年男性の配下、全員、メインディッシュとなる150人の良質な供え物の生贄に対して一斉に襲い掛かった。絶対的な食物連鎖の頂点と言える彼ら存在の前、150人は成すすべがなく、餌食にされて死んでいた。


小島が蝋人形のような嘘の笑顔で10代の中学生の綺麗な女の子の前に立っていた。彼女は恐怖のあまり、腰を抜かして、立つことが出来なくなった。


「せっかくの宴会なので喜んでいただきます。」


と言いながら、口を開き、その口が裂け、3本の触手(テンタクル)牙(ファング)が彼女の口、首とお腹を刺した。


若い血が美味、ゴディバのチョコレートより、駄菓子屋の10円チョコレートよりもと考えながら、


近くに居た副官兼運転手の田原を見た。彼は華奢な20代男性を犯しながら、口から出ていた2本の触手(テンタクル)牙(ファング)を華奢な男性の首に刺して、血を吸ってた。


「相変わらず品がないな、食べ物を汚さないで、遊ばないでほしいな、田原君。」


と頭で考えながら女子中学生を餌食にした。


ワトソン重工の日本支社の近く、監視カメラの死角になるビルの陰で黒岩理事官がバイクを止めて、電話していた。


「あの開祖ファウンダーはワトソン重工のビルに入った。おそらくあの地下シェルターに入ったと思う。田森元総理とそのセキュリティー要員も中にいると推測している。あの方を起こす必要がある、中山理事官。」


と電話の相手に話した。


「そうしましょう。あの開祖(ファウンダー)は田森を使って、この国を乗っ取るつもり。体制を立て直すので警視庁に戻ってください、黒岩理事官。」


と電話口の中山が答えた。


「わかった。すぐ戻る。」


と彼女が答えた。


突撃したい気持ち、災いをこの国に招いたあの狸じじいを殺してやりたくなった。


やっぱり自分自身は血の気が多いなと考えながら、あのお方、彼女にとって伯父上を起こす他道がないのは残念だった。あのお方は機転も効いて、頭の回転が非常に速い、新しい技術に寛容で珍しいもの好きな好奇心旺盛の性格をしてた、但し怒りが凄まじく、容赦情けもないことも知っていた。


彼女が彼のしもべで親族でもあった。そして近々始まろうとしている大きな戦に備える必要があるのも心得ていた。彼女の美しい顔、大きな黒い目、少しうねりのかかった長い黒髪の毛、小麦色のツヤある綺麗な肌をしていた。その美しい彼女が再び黒いフルフェイスヘルメットをかぶった。


そして黒岩弥生がバイクに乗って、警視庁に戻って行った。


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