第4駅 はじめての異世界鉄道旅 ~セントラル駅・フルーツタウン間~

 走行している列車内から窓の外を見て、僕はこの世界の景色を楽しみながらくつろいでいた。


「やっぱり、元の世界と違うな」


 木とか植物が、日本に生えているものとは明らかに違っていた。

 完全に僕の感覚なんだけど、どうも日本よりも熱い地域に生えている植物に近い感じがする。

 そういえばこの世界にやって来たとき、日本よりもやけに暑い感じがしたなぁ。


 その辺も含めて、後でトムとじっくり話をした方がいいかもしれない。




「……暇だなぁ」


 出発してからかれこれ一時間。最初は見慣れない異世界の車窓にワクワクしていたけど、前の世界と違って人間の手が一切入っていない。つまり景色が変わらず、すぐに飽きた。

 前の世界だったらスマホとかで暇をつぶせたんだけど、そんなものこの世界にない。


「……そうだ。せっかくだからトムに色々聞いてみよう」


 僕は客車前方の扉からデッキに出て、さらに機関車との接続部分を目指した。

 実は機関車と接続車両との連絡路は存在している。一般客車の場合、前方の扉から外に出て、連結部分の上を通っている足場を伝って機関車に乗り移る。

 機関車には足場が側面に設置されていて、これを渡れば運転席にたどり着ける。


「機関車の運転はどう、トム?」


「トシノリさん。はい、そうですね――一言で言えば、最高です。ボク、乗るのが大好きだったので」


 話を聞くと、どうやらトムは僕と出会う前に動物や魔物に乗って飛び回るのが趣味だったらしい。


「なので、こんなボクの知らない乗り物を呼び出せるスキルを与えることが出来て、本当に嬉しいんですよ」


「それはいいね。自分が好きな物に携われるなんてラッキーじゃないか。ところで、目的地に着くまで話をしたいんだけどいいかな?」


「ええ、いいですよ。ボクが知る範囲ですけど。それで、何が知りたいんですか?」


 そうだなぁ。聞きたいことは色々あるけど、まずは……。


「地理かな。この世界の大まかな形とか地形みたいなのを教えてくれれば」


「わかりました。では最初にこの大陸の話から。現在我々がいる大陸は『南部大陸』と言うのは前に話した通りですが、北には『北部大陸』が存在します。人間が住んでいるのは北部大陸ですね」


 『南部』大陸という位だから『北部』大陸もあるんだ。そして人が住むのは北の方だと。

 ちなみに、北部大陸と南部大陸の間は細い陸地で繋がっているらしい。


「繋がってるの!? じゃあ、なんで人間が南部大陸にやってこないの?」


「生息している魔物が、強力な上に数が多いからですね。一応南部大陸には聖樹によって魔物が入り込まない『聖樹の領域』が存在しますが、最も北部大陸に近い領域にも辿り着くのが難しいのです。仮に領域までたどり着けたとして、そこから生活基盤を整えて生きていくのはかなり難しいですよ」


「え!? それって、僕も危ないってことじゃぁ……」


「その点は心配ありません。そんな難しさを覆す力がこのスキルにはあります。そろそろセントラル駅の領域を出ますので、すぐに証明出来ますよ」


 次の瞬間空気が変わったのを感じた。

 ほんとに微妙な違いなんだけど、なんだか空気が少し重くなったような……。


「感じましたか? 領域の外は魔物が跋扈していて好戦的な気配があちらこちらで発生しています。その結果、空気が重くなったように感じるのです」


 怖っ! 空気が変わるほど好戦的って、世紀末かよ!


 と心の中で思いつつ、列車は進んでいった。

 しばらく走らせていると、何かが機関車に向かって飛んできた。


「なんか飛んできたよ!?」


「――犯人がわかりました。左側前方をご覧下さい」


 トムに言われて見てみると、そこにはあざやかな青いカエルが。

 ただ、大きさが見慣れたカエルじゃ無い。幼稚園児くらいの大きさがあるような……。


「あれが魔物の一種、『ソーサラーフロッグ』です。南部大陸では非常にありふれた魔物ですね。人間の魔法使いでいうところの初級魔法を使います。ちなみに、ソーサラーフロッグが人間の南部大陸進出を阻んでいる原因の一つです」


「どういうこと?」


「どうやら人間にとって、魔法を使う魔物の討伐は難易度が高いようでして。ソーサラーフロッグのように初級ながら魔法を使う魔物がそこらじゅうにいるので、人間が移住してくるのが難しいのです」


 へぇ、そうなんだ。

 ……ん? 待って。魔法を使うような強い魔物がありふれているって、僕達ヤバくない?


「ご不安を抱いているのはわかります。ですがご安心下さい。安全に南部大陸を移動できることを今から証明しますので」


 すると、トムはレバー操作を始めた。

 それが終わると、なんと機関車の横に車輪が出現。そのままソーサラーフロッグに飛んでいった。

 車輪はソーサラーフロッグに激突。そのまま遠くへ吹っ飛んでいった。


「このほかにも正面に高温の蒸気を噴射したり、石炭に似た魔石を炉に投入することで煙突から火の雨を降らせます。自衛手段はバッチリです」


「うん、少し安心した。これなら世界中どこでも行けちゃうのかな?」


 ところが、トムの顔が少し曇った。


「……正直な話、今のままでは厳しい場所が存在します。ここからずっと南にある『サバンナ』が該当しますね」


 さらに続けたトムの説明によると、南部大陸の北端から南に向かって三分の二の位置に、強力な南部大陸の魔物の中でもさらに強力な魔物が徘徊している地帯があるらしい。それが『サバンナ』。

 南部大陸はこのサバンナから南北に分断されていて、サバンナの南北で雰囲気がガラッと変わるらしい。


 そしてサバンナは東海岸から西海岸まで帯状に展開されていて、南部大陸の南端に行こうとするなら必ずサバンナを通らなければならないんだって。


「……そこまで厳しい場所なんだ。でも、トムは『今のまま』って言ったよね?」


「はい。スキルが成長すれば、いずれサバンナを安全に通過できる手段を獲得出来ますので、その時を楽しみにしていただければ」


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