第5話 ジャバヲォック釣り
ロッドは中空構造になっており四、五本の穂先が継いで作られている。さらに、細い方から太い根元の穂先へと収納できるようになっていた。基本的には引き延ばして使うものが主流だが、いくつかロッドにも種類はあり今僕が手にしているのは基本的な形状の物から発展させて遠投向きのやや図太い形状のものになっている。
ロッドは釣り竿とはいえ、一つの武器だ。
一番根っこの部分を
柄に魔力を込めると、穂先の先端の金属の穴から魔力を含んだ光が零れた。
「ロッド魔力注入――釣糸繊維構築――針巣結合――統合、固着完了」
ロッドの先の穴の部分から飛び出た針に思いっきり力を入れて引いてみる。ピクリとも動かない、基礎は忘れていないので良かったと安心した。
「では、ジャバヲォック釣りを開始する。――ハアァ!」
両手で竿を握り振りかぶり、前方に振り下ろしてダンジョンの奥へと
グングンと針が伸びていくのが手元に伝わる。
普通の釣りとは違うのはここからだ、最初に投げた勢いのままで針は飛んでいくが、その後の操作は
入り組んだダンジョンの中で、魔素の流れから空間把握を行いつつ、仕掛けが落下するまでの間に岩場に引っかからないように気を付けつつ目的の場所へと導く。
ごすぅ、と鈍い感覚が先から伝わった。
初めての釣り場だったが、岩掛かりもなく無事に奥に到達したらしい。
「アミラ、底に着いたぞ」
「わ、私はどうしたらいいのでしょうか」
「はは……そうだな、だったら祈っておいてくれ。針は無駄にしたくない、別の魔物が掛かっても困るし――なっ!?」
会話しながらほんの僅かな針の震えを感じ、ロッドを引きつつ立てた。指先から感じた当たりから、針が標的の口元を捉えたのが伝わった。
抵抗しダンジョンの中で暴れているのか、竿先が何度も弧を描いた。頑丈な魔力糸を作ることには自信があった、丈夫な糸を作るほどロッドと
「来た、来た、来たぞ。……今から
伸びた魔力糸は高速で戻り、ダンジョンの暗闇の中から巨大な影が姿を現した。
全長十五メートルほどの巨体に両手に二本ずつの長いかぎ爪、顔はトカゲの首を強引に引っ張ったようにひょろ長い、背中には魔物が洞窟に潜るようになって退化した小さな羽が生えていた。――ジャバヲォックだ。
一つ、俺の知っているジャバヲォックと違うことがあるとしたら、頭部には剣で傷つけられたような傷跡が残っていた。
「アミラ、俺を守れ! まだダンジョンの恩恵が残っている! 完全に外に出るまでは、攻撃するなよ!」
月明かりの下に顔を出したジャバヲォックは大きく開口すると炎の塊を放出した。
指示を受けていたアミラは俺の前に立つと、魔法剣で炎の塊を切り裂いた。
「よくやった! うおおぉぉ――!!!」
最後のひと踏ん張りだった。竿を立て、魔力の糸を再構築。そして全身を使い、体をのけ反らせて、ジャバヲォックを外に引っ張り出した。
急いでダンジョン内に戻ろうとする魔物と不意打ち気味に攻撃をする魔物もいる。どうやら奴は後者を選ぶようで、もう一度火の玉を放つ為に口を開けた。
「クルスさん!」
「俺のことはいい! 攻撃に集中しろ!」
火の玉を放つ直前、俺は釣り糸を消してロッドを放り投げると同時に地面に転がった。俺の頭上を一瞬だけ真夏のような暑さが通り過ぎていった。
熱さからか冷や汗なのか、それとも久しぶりの釣りによる緊張からの発汗か、汗びっしょりになりながら顔を上げた俺が見たものは頭部に魔法剣を突き立てたアミラの姿だった。刃先から流れた液体は、恐らく事前に用意していた毒だろう。
「やったな、アミ……あれ……?」
視界が揺らぐ、この感覚は知っている。
「魔力の使い過ぎか……」
五年の空白のしわ寄せは、魔力の枯渇という形で表に出てきたらしい。心配した顔で駆け寄ってくるアミラに微笑んだところで力尽きた。
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