丘の上病院

「みそらー! みそらー!」お母さんが呼ぶ声が聞こえる。

 

 階段を降りると机の上にはトーストとミルク。そして果物の入ったバスケットが置かれていた。

 

「おばあちゃんの病院にお見舞いに行ってきてちょうだい」

 

 病院……美空は思わず後ずさった。病院のピッチは島の中でも最悪の代物だったからだ。

 

「夜にはお迎えに行くからそれまで病院で待っててね」

 

 そんな……!

 

 あんなところに一日中いたら頭がおかしくなっちゃう!

 

「お願いね! お母さん今から仕事だから!」

 

 行っちゃた……

 

 美空はフルーツバスケットを睨んで覚悟を決めた。

 

 今日は病院のピッチを直すぞ……

 

 昨夜の不安が少し脳裏をかすめたが、美空はそれを脇へ押しやった。頭をブンブン振って。

 

 丘の上病院には住宅地から出るバスに乗って行ける。病院は島の中腹より少し高いところに建っている。真っ白で綺麗な建物。

 

 島と同じ渦巻きの形に造られた病院は、てっぺんに白地に赤い十字の旗がはためいている。

 

 バスから病院が見え始めると同時に、耐え難い狂った音色が聞こえ始めた。

 

 ホントに酷い音! 本当にみんな何とも思わないの?

 

 看護婦さんの優しい笑顔も、お医者さんの笑った白い歯も、何もかもが歪んで邪悪に見えるくらい病院の音は酷かった。

 

 頭を抱えておばあちゃんの病室に入ると、おばあちゃんはベッドに座って待っていた。たくさんの管につながれたおばあちゃん。

 

 はい。これ。

 

 おばあちゃんは笑顔でフルーツを受け取ると、美空にそっと何かを差し出した。

 

 それは綺麗な銀色の音叉。

 

 音叉の持ち手には、首にかけるための革紐が付いていた。

 

 くれるの?

 

 おばあちゃんは黙ってにっこり微笑んだ。

 

 ありがとう。おばあちゃん!

 

 おばあちゃんは黙って頷いてる。昔耳を悪くして、今ではまったく音が聞こえないんだって……

 

 おばあちゃんはそれだけ済ますとプイと窓の方を向いて眠ってしまった。

 

 美空は試しに音叉を鳴らしてみた。だけどなんにも音がしなかった。

 

 使い方が間違ってるのかな?

 

 美空は首にかけた音叉を服の中に仕舞って、病院の機関部の入り口を探すことにした。

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