第16話 エルメアーナの検討 5


 エルメアーナは、自分のスープ皿をジーッと見ていた。


 そして手に持ったスプーンをスープの中に入れた。


 スプーンは、丸いスープ皿の外側から中心にゆっくり動かし、そして、また、中心から外側に動かした。


 そして、そのスープと一緒に回っていた薬味の粉の動きを凝視していた。


(なるほど、螺旋か)


 エルメアーナは、何かに気がついたようだ。


(螺旋だったら、もう一方の円盤が、放射状の溝でも、同じところだけを使う事はないのか)


 するとエルメアーナは、何かに気がついた様子で、鋭い表情をした。


(あの2人は、ここまで気付いていて、私に話をしていたというのか)


 エルメアーナは、お皿の中で回るスープを見てジューネスティーンの描いたポンチ絵を思い出し、もう一方の中心から放射状に描かれた線状の溝について考えていたのだ。


(そうなのか、ジュネスの言った螺旋を作れるなら、この方法でもよかったのかもしれない。 これなら、転がっていくボールは、放射状の溝を徐々に移動していくことになるのか。 転がるのか)


 エルメアーナは、真剣な表情をした。


(あれだと、溝も半円状になっているし、放射状の溝は、転がり方向とは、垂直方向に有るって事になるのか)


 エルメアーナは、何かに気が付いた表情をすると、そのまま、険しい顔をした。


(いや、ボールが転がる方向と垂直にできた溝は、バリのようなものだったり、形が歪だったりしたら、そこで引っかかる可能性が高いはずだ。 それに比べると、同じ方向の同心円のトンネルだった場合は、ボールの回転方向に対して引っ掛かるような角が無い)


 すると、エルメアーナは、ニヤリとした。


 それは、自分の考えに納得できた時に出る表情だった。


(そうだな、トンネルとボールが転がって、接触するなら、円運動だから、円と平面に当たるには、徐々に近づくようになるのか、ジュネスの考えた放射状の溝だと、溝は、回転方向に対して垂直だから、ボールが立ち上がってくる時に、角に当たってしまうが、私の考えている、どちらも同じ同心円上なら、角に引っ掛かる事はないな。 それにこの方法の方が、メンテナンスが簡単になるはずだ)


 そして納得するような表情をすると、体を戻すようにして、視線をスープ皿から前に向けた。


 そこには、頬を膨らませて、睨みつけるように見ているアイカユラが居た。


「え、何?」


 エルメアーナは、思わず声を出した。


 エルメアーナには、アイカユラが、また、不満そうにしていた事が何でなのかと思ったようだ。


「また! エルメアーナったら、私の料理が美味しいって言ったはずなのに、スープで遊んでたじゃなの」


 面白くなさそうにアイカユラが言うと、エルメアーナは、しまったと思ったようだ。


 今、スープが回っている様子を見て、ベアリングを丸めるための円盤のヒントを得たのだが、食事をしながら、そのことに気がついたエルメアーナに、アイカユラは面白くなかったのだ。


 それに気がついたエルメアーナは焦っていた。


「あ、いや、これは、ジュネスの考えていた事が、何だったのか、スープからヒントを得てしまったんだ」


 慌ててフォローするというより、本音を漏らしてしまった。


 その答えに、アイカユラの表情が険しくなったので、エルメアーナは、また、しまったと思ったようだ。


 また、アイカユラに怒られると思ったエルメアーナは慌てていた。


「いや、これは、スープが、とても美味しく、上手にできていたからなんだ。 うん、そうだ。 このスープの滑らかさと、絶妙な粘度が出ていたから気がついた事なんだ。 これが、このトロミが出てなかったら、絶対に気がつかなかったと思う。 うん、アイカの料理のお陰で、疑問に思っていたことも解決できた。 美味しい料理を食べているのに、私の考えていた問題まで解決させてくれるなんて、アイカは、本当に、料理の天才だ。 これは、きっと、アイカの料理は、大陸でも数本の指に入ることも考えられる。 うん、料理の大会があったら、優勝するのは、アイカかフィルランカになるだろうな。 うん、きっとそうに違いない」


 エルメアーナは、このままでは、アイカユラが怒り出してしまい、説教モードになってしまうと思った様子で、考えられる美辞麗句を並べたてた。


(え! 何、私の料理って、大陸でも数本の指に入るの? 料理の大会があったら優勝? え、えへ、えへへ。 え! でも、素直に喜んだら、エルメアーナの思う壺じゃないの)


 それによって、アイカユラの気持ちも和らいだのだが、アイカユラは、ただ、そのまま喜んだとしたら、負けたという気分にでもなったのか、表情の和らぎは抑えつつ答えたのだ。


「わかったわ。 そう言うことにしておくわ」


 そう言って、アイカユラも自分の食事を続けた。


 その様子を見てエルメアーナは、ホッとした様子で、肩から力が抜けたようだ。


 そして、アイカユラの機嫌が悪くならないうちに、自分の食事を終わらせるように急いでいた。


 エルメアーナとしては、アイカユラのご機嫌を損ねることは、自分に跳ね返ってくることを理解しているので、食事を早く終わらせて、ベアリングの開発について考えようと思ったようだ。

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