第9話 3人のディスカッション 3


 ジューネスティーンは、溝というワードに引っかかったようだ。


 自分の作ったサンプルのベアリングについて、丸めるために上下に板を置いて、その板を円を描くように動かしたのだ。


 それは、人が、団子を丸める時の事をイメージして考えたようだ。


 だが、今、エルメアーナの言った、溝というワードが、ジューネスティーンには、引っ掛かったようだ。


「溝。 ……。 溝。 ……。 済まないが、ちょっと石板が欲しい」


 ジューネスティーンの様子に注目していたエルメアーナは、突然、視線が合ったと思ったら、石板と言われて少し焦ったようだ。


「あ、ああ」


 エルメアーナは、ジューネスティーンの言葉に反応して、店のカウンターの後ろの棚に置いてある石板を取りに行った。


 すると、そこには、アイカユラが、アンジュリーンとアリアリーシャの相手をしていたのだが、エルメアーナが向かってくるので、後ろにある石板を取って、カウンターに来たエルメアーナに渡した。


 アイカユラは、アンジュリーン達と軽い話はしていたが、それと同時に、エルメアーナの事を気に掛けているので、ジューネスティーン達との話は、アンジュリーン達と話をしていても聞いていたのだ。


 エルメアーナの動きも気にしていたこともあり、直ぐに、石板を渡す事ができた。


 石板を受け取ったエルメアーナは、テーブルに戻るとジュネスティーンに石板を渡すと直ぐに白墨を持って、石板の半分に円を描き、その円の中に渦巻きを描いた。


「こんな円盤を用意しておいて、渦巻きを半円状に掘っておくんだ。 ベアリングと同じおおきさの、ちょうど半分だな。 その溝に作ったボールを転がしてあげたら、凸凹が削られるんじゃないかな」


 そして、残り半分に同じ大きさの円を描き、その円と中心が同じになるように内側に何本かの同心円を描いていった。


「こうやって、二つの円盤を合わせて、片方は固定、片方は円運動をさせたら、二つの円盤の溝をボールが転がってくれる。 この螺旋を付けた円盤の外側から、ボールを入れていったら、徐々に、螺旋の中央にボールが流れていって、中央に穴を開けておけば、そこからボールが外に出せるんじゃないか、な」


 ジューネスティーンは説明するのだが、説明の最後の方は不安そうに言ったのだが、シュレイノリアは、残念そうな表情をしつつ、ため息を吐いた。


「ジュネス。 それは、後から書いた円だけの所を、ただ、グルグルと回るだけだ。 その螺旋の円盤にボールを転がしたいのなら、もう一方は、円ではなく放射状に、内側から外側に向かう線を描かないと、螺旋の上を移動していかない」


 ジューネスティーンのアイデアの欠陥を、シュレイノリアは、直ぐに指摘した。


 そして自分のアイデアの不具合点に気がついたようだ。


「あ、ああ、そうか。 ……。 うん、そうだね」


 シュレイノリアの指摘を、ジューネスティーンは、直ぐに受け入れた。


 そして、後から書いた同心円を描いた円を消すと、もう一度、円を描いてから、中心から外に向けて線を描きだした。


(そうだな。 これじゃないと、螺旋の中を転がっていかないな。 さすが、シュレだ。 こういったところを直ぐに指摘してくれるから、余計な物を作る前に、問題点が分かるから、失敗品を作る必要が無くなるな)


 ジューネスティーンは、ホッとしたような表情をした。


(あ、これって、螺旋の出口を中心付近に配置すると、1回転中のボールの数が減ってしまうのか。 あまり、中心に近く無い場所なら、放射状の線は、多く取れるから、この放射状の直線と、何本の螺旋にするか、これによって、一度に入れられるボールの数が決まるのか。 ……。 イヤ、これは、表面を平らにするために行うのだから、螺旋はなるべく長い方が、一度に表面は平らになるってことか)


 そして、自分で描いた石板を見て、何か考えているようだった。


 そんなジューネスティーンを、シュレイノリアは、ジーっと見ていた。


「ジュネス。 これで、真球にする方法は、目処がたった。 だが、これは、ある程度、球体になってないと、使い物にならないぞ。 ほぼ、球体にする方法を考えない限り、この治具は使うことができない」


 ジューネスティーンは、シュレイノリアの指摘を受けて、渋い表情をした。


(そうだった。 これは、ある程度、球体になってないと、使い物にならない。 シュレの言う通りだ。 俺が作った時は、立方体を叩いて丸めてたけど、あの方法だと、この治具に入れるまでに、1個作る時間がかかりすぎる。 もっと、簡単に、短時間で作る方法を考えなければいけないのか。 ……。 そっちの方が、より、難しいかもしれないな)


 ジューネスティーンの表情は、渋いままなのは、良いアイデアが思い浮かばないからであって、そのアイデアを探すように、思案を巡らせていたのだ。


「丸くする方法か、……。 ある程度、丸く作られないと、この溝の円盤の意味はないのか」


 その様子を、エルメアーナも真剣な表情で見ている。


 だが、鍛治技術についてエルメアーナは、アドバイスをすることができるだろうが、ジューネスティーンの考えているのは、大量生産を行うための事なので、エルメアーナには、何も思い当たるものは無かった。


「あー、叩いて丸めるなら、私の出番だろうけどなぁ」


 エルメアーナは、自分が金槌をふるって、球体を作るなら、助けられるのかと思ったようだが、アイデアをアドバイスすることは難しいと思ったようだ。


「叩く? ……」


 ジューネスティーンは、何か引っかかるような表情をした。


「叩く、叩く、……。 叩くか」


 そう呟くと、ジューネスティーンは、ニヤリと笑った。

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