第8話 何とかなるかな?

 私はアナスターの口添えもあって牢獄から出る事が出来た。

 行く当てのない私を又してもアナスターが手を差し伸べてくれた。

 余りにも優しすぎる。若くてカッコいい相手ならいざ知らず、こんなオジサン相手にアナスターは何を考えているんだろうか?


 アナスターの家は思った通り、貴族のお屋敷の様な佇まいだった。

 門番が扉を開くと執事が出迎える。


「ようこそいらっしゃいました」


 執事は私を出迎えると屋敷の中を案内した。

 私は疑問に思った事をアナスターに伺った。


「君が毒を解毒して私を街まで運んでくれたんだね?」


「そうです…大変でしたのよ…」


 アナスターはうっすらと微笑んでいた。まるで天使の様だった。


「こんな私の為にすまなかった!」


 私は地面に這いつくばり土下座した。アナスターは慌てた様子で私を引き起こす。


「やめてください!私を庇ってくれたではありませんか?」


「しかし君には世話になってばかりだ!あのくらいで報いる事はできない」


 確かに私はモンスターの毒針からアナスターを庇った。

 しかしアナスターなら、あのくらいの攻撃は回避することができたはずであろう。

 私は要らない負傷を負い、アナスターに余計な負担を掛けていたのではないだろうか?


「山田さん…人は助け合って生きていくものなのですよ」


 アナスターは優しいほほ笑みを向けている。

 私のアナスターを見つめる瞳は涙が溢れていた。


「そういえば元の世界に戻る手立ては見つかったのですか?」


 私はアナスターに事の顛末を話した。

 神妙な面持ちで話を聞き入るアナスターの顔に閃きが浮かんだ。


「でんきと言うものが必要なんですね…それは私たちの世界でいう電撃に通じるものはありませんか?」


 その言葉にハッとした。やはりアナスターは賢い。

 魔法の世界なら電気系統の魔法もある筈である。

 私はバッテリーケーブルから電気系の魔法で電気を送電するイメージを思い浮かべた。


「そうか…その方法があったか…」


 例えスマホが起動しても戻れる保証はどこにもない。しかし、その発想は閉ざされた未来の唯一の希望だ。

 私の前に微かな光が差し込んだ。


「ではエルザに協力してもらいましょう」


 エルザの名前を聞いた途端、物凄い不安が私の中に押し寄せた。


「エルザは神官ですのよ…電撃系統の魔法は得意ですわ」


 しかし、嬉しそうに微笑むアナスターに私は何も言える筈が無かった。



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